質問コーナー

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Q&A

人工授精や受精卵移植の後、注入器の先端に赤色の液体が付着していることがあるのですが…

掲載日:2021.05.12

Q

人工授精や受精卵移植の後、注入器の先端にわずかに赤色の液体が付着してることがあります。体感的には受胎率が悪くなってるとは思わないのですが、頸管や子宮内を通す技術が未熟だと思って付着しないように心掛けるべきでしょうか?

A

人工授精や受精卵移植後に注入器に着く赤色は血液です。
人工授精時と受精卵移植時の出血は、それぞれ受胎率に及ぼす影響が異なります。
人工授精時より受精卵移植時の出血の方が、受胎率低下の影響は強くなります。
私たちが過去に出血がある場合とない場合の受精卵移植後の受胎率を比較した結果、出血がある場合の受胎率は、ない場合より低くなりました。
このことは他の複数のグループも同様の報告をしています。

出血はどこで起こっているかというと、①子宮頸管の通過時②子宮体に注入器を挿入する時③子宮角の奥に挿入する時ーに起きていることがほとんどです。

子宮頸管通過時に出血する原因は、注入器を動かし過ぎることです。
人工授精や受精卵移植時に子宮頸管を通過させる際には、注入器を動かしたくなりますが、注入器は動かさず、子宮頸管を動かして挿入する技術を修得することが大切です。
経験豊富な方は注入器を動かさない操作を行っていると思いますが、もし、思ったほど受胎率が上がらないと感じている方は、注入器を上下左右に動かさない注入法を試してみていただきたいと思います。
その時大切なことは、ゆっくり、じっくり時間をかけて注入器を操作して奥に挿入することを心がけて行うことです。

子宮体への挿入や子宮角の奥への注入器の操作には、熟練が必要です。
人工授精の場合は、子宮体に注入器の先端が到達したところで精液を注入するか、もう少し奥に入れたい時や卵胞側の子宮角に注入したい場合は、子宮角の浅部より少し奥に注入器の先端が到達していれば注入できます。
この時大切なことは、子宮を下から支えて注入器の先端が子宮角の内壁を擦らないようにすることです。
子宮角は下方へ曲がっていますので、直管の注入器を奥に入れようとすると、 必ず内壁に直に当たります。
この時、子宮内膜を注入器の先端で擦ったり、つついたりしているときに出血が起きます。
したがって、注入器の直管の形に合わせるように、子宮体、子宮角を下方から手で支え、注入が終わるまで、その体勢を維持します。注入が終わったら注入器を先に抜き去ってから、子宮を元の状態に戻します。

無理して奥に挿入すると出血が起こる機会は増えますので、無理をせず、ある程度奥に入ったところで注入することをお勧めします。

受精卵移植の場合は、現在カニューレ型の注入器(モ4号、YTガンなど)が市販されていますので、これらを使えば子宮角奥に容易に挿入でき、移植することができます。特に経産牛では効果的で、熟練者でも受胎率が向上します。
私個人の受胎率も直管型の注入器に比べて、カニューレ型の移植器を使用すると約5~7%受胎率が向上しました。

人工授精や受精卵移植時に注意すべきもう一つの点は、ビニールタイプのカバー(シース管カバー)の使い方です。
最近はビニールカバーを使用される人工授精師の方が多くなっています。
人工授精においても、経産牛ではビニールカバーを使った方が受胎率が上がるという報告があります。
受精卵移植では、ビニールカバーは必須です。
しかし、ビニールカバーの材質にはいろいろあり、なかなか固くて破れにくいものもあります。
ビニールカバーの正しい使い方は、注入器の先端が外子宮口に到達したら、しっかり注入器の先端を外子宮口に当てて、ビニールカバーを引っ張って破り、注入器の先端を出します。
このあと、注入器を入れた分だけ、ビニールカバーを手前に引っ張ります。
そうしないと注入器が奥に進まなかったり、止まったりします。
また、ビニールカバーごと子宮頸管の中に入ってしまいます。この時、子宮頸管内で擦れて出血します。
この時の出血は、意外に多いことがよくあります。
ビニールカバーの材質が硬いほど、このようなことが起こりますので注意が必要です。

ビニールカバーの材質が硬い時は、先端を少しだけ斜めにカットして、ビニールカバーの先端を2~3cm折りたたんで膣内に挿入し、外子宮口に到達した時点で、丁寧にビニールカバーを手前に引けば、無理なく注入器を出すことができます。
このようにすれば、もしかするといちいちビニールカバーを手前に引くことをしなくても、注入器を奥に入れることができるかもしれません。

以上、なかなか分かりにくい説明で申し訳ございません。
いずれにしても、出血は受胎率低下に少なからずつながりますので、第一に丁寧にゆっくりと注入操作を行う事が大切です。
第二には、受精卵移植時には出血は明らかに受胎率低下につながると考えて、丁寧でゆっくりした注入操作を心がけることが大切であり、子宮角の奥に挿入する場合は、①子宮角をしっかり下から支える②できればカニューレタイプの注入器を使用する③ビニールカバーの使い方に注意するーなどが技術的ポイントになります。
そのようなことを励行すれば、凍結受精卵でもコンスタントに60%の受胎率を確保できるようになると思います。


【回答者】
酪農学園大学
学長 堂地 修