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離乳前後の子牛の管理について

掲載日:2019.02.14

獣医学群 獣医学類
ハードヘルス学ユニット
 福森 理加

はじめに
子牛の哺育期は、牛の一生のなかでも著しい成長を遂げる時期ですが、免疫力や消化機能が十分に発達しておらず、飼養方法や環境によって健康や発育が大きく影響を受けます。寒冷や感染によるストレスや消化性の下痢は、本来発育に利用されるべきエネルギーの消耗や損失につながるため、それらを引き起こす要因をできるだけ除くようにしなければなりません。人工哺育で飼養される子牛は、離乳の時期や方法を人によって決定されます。そのため私達は子牛の消化や代謝機能の変化に基づいた飼養管理を実践するために、子牛の栄養生理学的な特徴を理解しておく必要があります。

1.子牛の消化器官・機能の発達
子牛は、出生後、ルーメンが未発達なので、栄養素の吸収は単胃動物同様に小腸からの栄養素吸収に依存します。哺乳期間中は、ミルク中の糖類が主要なエネルギー源となります。哺乳子牛は、固形飼料を徐々に摂取することにより、ルーメン機能を発達させます。子牛に摂取された固形飼料は、ルーメン内の微生物により発酵を受け、その産物である揮発性脂肪酸(VFA)が宿主(ウシ)のエネルギー源としてルーメン壁から吸収されます。人工哺育下においては、離乳は人為的に行われるため、離乳までにルーメン機能を発達させ、離乳後にルーメン発酵により生存や成長に必要な栄養素を吸収できるようにしておかなければならなりません。ルーメンの発達には、物理的刺激とVFAによる化学的刺激が必要とされています。乾草のような物理性のある飼料は、ルーメン容積を増大させます。一方で、ルーメン発酵で生じたVFAを吸収するためには、ルーメン上皮組織の形成が重要であり、この形成を促すのはVFA、なかでも酪酸の効果が大きくなっています(小池, 2017)。酪酸はデンプンの分解によって多く産生されるため、人工乳の給与が早期離乳をさせるために必要とされています。

2.子牛の栄養代謝機能の特徴
成長には、成長ホルモン(GH)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)などのホルモンによる調節が関与しています。これらのホルモンにより、タンパク質の蓄積量が増え、脂肪組織の蓄積が抑制されます(図1)。GHは脂肪組織によるグルコース利用を抑制し、脂肪組織の蓄積量を低下させます。また、消化管からのミネラル吸収を調節し、骨成長を調節しています。また、GHはインスリン感受性を低下させることにより、肝臓および脂肪組織によるグルコース取込みを抑制します。このような作用により、骨および筋肉に供給される栄養素を増加させるとともに、肝臓からIGF-1分泌を刺激してこれら組織の成長を促しています(佐野, 2015)。哺育期の血中GH濃度は他の生理ステージと比較して著しく高く、離乳後、徐々に低下します。一方で、血中インスリン濃度は離乳後に増加します(図2)。このような血中ホルモン濃度の変化は、日齢によって変化するほか、離乳による吸収栄養素の変化によっても影響をうけることが明らかにされています。一般的に、動物の成長過程において、体タンパク質は出生後からほぼ直線的に増加するのに対し、脂肪の蓄積は初期段階では緩やかで、後期に二次関数的に増加します。このように、哺乳期は体の骨格を作る上で不可逆的な時期であるため、従来のように哺乳量を制限してルーメンの早期発達を重視するよりも、将来の乳生産を視野に入れた長期的な観点から、体の発育を促すこと(体のフレーム作り)を重視した高栄養の哺乳プログラム(SoberonとVan Amburgh, 2013)にシフトしつつあります。
 消化管から体内に栄養素が吸収される際、その刺激をうけた内分泌細胞から代謝ホルモンが分泌され、血中の栄養素はそれらホルモンのはたらきによって各組織に分配・利用されます。吸収栄養素に対する代謝ホルモンの分泌応答は、栄養素の種類や吸収部位によって異なります。代謝ホルモンのうち、グレリン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)およびインスリンなどの消化管ホルモンは、単胃動物では、小腸からのグルコース吸収が分泌を制御しますが、成反芻動物では、小腸からグルコースが殆ど吸収されないため、VFAがこれら消化管ホルモンの分泌を制御しています。しかし1週齢程度の哺乳子牛においても、VFAによってこれら消化管ホルモンの分泌応答が認められます(Fukumoriら、2012a, b)。すなわち子牛はルーメン機能が未発達なだけで、栄養代謝的には生まれながらにして反芻動物としての(VFAを利用できる)機能を有していることを示しています。

3.哺乳プログラム
 酪農現場では、子牛は母子分離して飼養されるため、人工乳(スターター)を利用して6~7週齢程度で離乳させる早期離乳法が普及してきました。従来から行われてきている早期離乳の方法は、生乳あるいは代用乳の給与期間を短くする代わりに人工乳を中心とする固形飼料の摂取に早期に切り替えて、ルーメン機能を早期発達させることを目的としています。この方法では、固形飼料の摂取を促すために、哺乳期間中の哺乳量は1日当たり出生時体重の10%程度(4ℓ/日程度)に制限されています。一方で、哺乳期における体格の発育改善や健全性、アニマルウェルフェアの観点などから、最近では、高栄養で哺乳(8ℓ/日程度)する方法が主流となりつつあります。

4.離乳のタイミング
 従来の哺乳方法でも高栄養哺乳を行っていても、人工乳を自由摂取できる状況を作っておけば、子牛は2~3週齢位から人工乳を摂取し始め、4週齢時に摂取量は200 g/日程度となり、その後急速に増加します。しかしながら人工乳の摂取量増加は、哺乳量の減少または哺乳停止による空腹感によって引き起こされるため、哺乳プログラムの違いに影響をうけます。離乳のタイミングは、人工乳の摂取量が目安となっており、従来の4ℓ 哺乳法では、人工乳摂取量が1,000 g/日を3日間で離乳とされ、概ね6~7週齢で達成されます。一方、高栄養で哺乳を行うと、哺乳期間中の人工乳摂取量の伸びが鈍くなるため、5~6週齢位から2週間程度の段階的な哺乳量の制限を行い、離乳時期を8週齢程度とします。また、この離乳時の人工乳摂取量も従来法と同様では高栄養哺乳とのエネルギー供給量の落差が生じてしまうため、1,500 g/日程度とされています。いずれの方法においても、哺乳をストップする前に、しっかりと人工乳を摂取し、反芻や糞の性状に問題がないことを確認してから離乳を行わなければ、離乳直後に一時的なエネルギー摂取量の減少と発育停滞を招いてしまいます。

5.固形飼料の給与について
 6~8週齢程度で離乳される子牛は、離乳後に摂取する栄養素の大部分を人工乳に依存せざるを得ません。この時期の粗飼料摂取量は微量であり、ルーメンにおける繊維の発酵機能も十分でないため、発育に十分な栄養素を粗飼料に依存することは困難です。しかしながら、先述のように、粗飼料はルーメン容積を増加させる機能があり、反芻刺激を促すことでルーメンの恒常性維持に寄与するため、哺乳期から給与されるべきです。粗飼料は子牛本意で摂取されるため、子牛が好む粗飼料を使用することが前提ではありますが、粗飼料の種類・質や人工乳との適切な給与割合などは、今後の研究課題です。
ルーメンの機能が不十分であると、摂取した人工乳がルーメンで十分に発酵されず、未消化のデンプンが後腸に移行して消化性の下痢(大腸アシドーシス)を起こすことが危惧されます(Eckertら、2015)。このため、人工乳中のデンプン含量などを低下させる(高繊維性の飼料で置き換え)試みが報告されていますが、高デンプン人工乳に対して高繊維人工乳は増体速度が低下してしまいます(Hillら, 2016)。我々の研究では、小腸由来ペプチドであるGLPが離乳を起点として上昇し、それらの分泌がルーメン発酵で産生されるVFAの刺激で増加することを示しています(図3)。また、離乳後の発育が良好な個体はGLP分泌が離乳前後に増加していることを観察しています。今後、ルーメンや下部消化管の固形飼料に対する適応変化をより詳細に理解し、スムーズな離乳を実現させる研究を行っていきたいと考えています。

 

<引用文献>
Eckert E., H. E. Brown, K. E. Leslie, T. J. DeVries, M. A. Steele: Weaning age affects growth, feed intake, gastrointestinal development, and behavior in Holstein calves fed an elevated plane of nutrition during the preweaning stage. J. Dairy Sci. 98: 6315-6326 (2015)
Fukumori R., T. Mita, T. Sugino, Y. Hasegawa, M. Kojima, K. Kangawa, T. Obitsu, K. Taniguchi: Effects of glucose and volatile fatty acids on blood ghrelin concentrations in calves before and after weaning. J. Anim. Sci., 90: 4839-4845 (2012a)
Fukumori R., T. Mita, T. Sugino, T. Obitsu, K. Taniguchi. Plasma concentrations and effects of glucagon-like peptide-1 (7-36) amide in calves before and after weaning. Domest. Anim. Endocrinol., 43: 299-306 (2012b)
小池聡: 新生子牛の成長に伴うルーメン機能発達と細菌叢形成, 臨床獣医, 35: 10-13 (2017).
Hill, T. M., J. D. Quigley, H. G. Bateman II, J. M. Aldrich, R. L. Schlotterbeck: Source of carbohydrate and metabolizable lysine and methionine in the diet of recently weaned dairy calves on digestion and growth. J. Dairy Sci., 99: 2788-2796 (2016)
佐野宏明: 成長の内分泌制御, 新編 家畜生理学, 113 (2015)
Soberon, F., M. E. Van Amburgh: The effect of nutrient intake from milk or milk replacer of preweaned dairy calves on lactation milk yield as adults: A meta-analysis of current data. J. Anim. Sci., 91:706-712 (2013)

 

※本研究の一部は伊藤記念財団(研161)およびJSPS科研費(26850171)の助成を受けたものです。

図1 子牛の発育と代謝ホルモンの関係

離乳前後の子牛の管理について

図2 哺育期における血漿成長ホルモン(GH)およびインスリン濃度の変化

離乳前後の子牛の管理について

図3 哺育期における子牛のGLP-1濃度推移

離乳前後の子牛の管理について

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