乳牛の暑熱評価指標としてTHIが採用されたのはなぜですか?
掲載日:2022.08.09
現在、牛の温熱指標として温湿度指数(THI:Temperature Humidity Index)が使われていることをこちらのホームページを読み知りました。
「それまでは体感温度を使用していたが、より厳しく湿度の影響が考慮されているTHIが採用された」というところまでは理解できました。しかし温熱指標として使用されているものが多くある中で、THIが家畜の指標として採用された理由がわかりません。また、体感温度からTHIへの移行はいつ頃に始まったのでしょうか。
○温熱指標としての体感温度
まず、気温と湿度の計測方法の変化から見ていきます。
1980年頃は温湿度の計測は、アネモマスターと呼ばれる通風式の乾湿球温度計で、気温は乾球温度計、湿度は気温とガーゼで濡らした湿球温度計の値から計算や表を使って求めていました。乳牛の体感温度は、
乳牛の体感温度=0.35×乾球温度+0.65×湿球温度
で計算されます。乾湿球温度計を用いて湿度を計測していた頃は、体感温度はとても簡単に計算することができました。
しかし、デジタル温湿度計が出現し、一般的になってきた2000年(確実ではありませんが)以降は、湿球温度を簡単に求めることができなくなってしまいました。体感温度を求めるためには、乾湿球温度計が必要でした。
気温と湿度から湿球温度を求めるためには、パソコンでプログラムを組んで計算するか、湿り空気線図を用いて湿球温度を求める必要があります。昔は簡単に計測できた湿球温度が、とても求めるのが難しい値になってしまいました。
○THIの普及
THIが家畜に応用されたのは1964年頃と言われています。一般的に用いられるようになったのは1990年以降と思われます。THIも以前は乾湿球温度から計算されていましたが、1990年頃には気温と湿度での計算や表が作成され、乳牛の乳量によって暑熱ストレスの程度が関連付けられました。
特に、米国の情報を取り入れてきた普及指導員さんや獣医師の方がTHIによる指導をしてきたように思います。最近では、乳量水準が高くなったこともありTHIの改訂版が出るなどしています。
気温と湿度で計算されるTHIですが、最近ではこれに風速や放射を取り入れた改良THIなども提唱されてきました。
しかし、温熱指標としてTHIのみに限定されたわけではありません。THIが主流となったということと思います。
その理由は、デジタル温湿度計が一般化した現在、温度と湿度で簡単に計算することができるTHIが利用されるようになったということだと思います。簡単に湿度(%)を計測できるようになったことで、「湿球温度」で計算する体感温度は利用しにくくなったということではないでしょうか。
○湿度と気温で表示された体感温度表(安全、注意、危険の区分付き)も、国と府県の試験場の研究で示されています。私はこちらも学生には示して参考にしてもらっていました。
○「体感温度からTHIに移行した」と言うわけではなく、どちらも使われており、米国の情報の普及とデジタル温湿度計の普及でTHIが主流になっているということと思います。
【回答者】
酪農学園大学
名誉教授 髙橋 圭二