ジャーナル・アイ

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不作の収穫感謝祭

掲載日:2019.09.19

酪農学園大学獣医学群
獣医学類(獣医倫理学)准教授

髙橋 優子

 

 2016年は、北海道の農家や酪農家にとって大変な年であった。6月は長雨があり、8月には台風が三度も襲来した。収穫間際の作物が全滅したり、何百頭もの牛が川の氾濫によって孤立したり…と、農家の方々は大きな試練に遭われた。

 酪農学園大学の1年生は「基礎演習」という科目を履修することになっているが、その中で「基礎ゼミ農園」(ゼミごとに小さな区画の畑が与えられる)の授業があり、畑を造って全員が農業体験をする。何を栽培するかをみんなで相談して決め、サポーターの学生に指導を受けながら作物を栽培する。その生長過程を記録し、「収穫感謝祭」のときにポスター発表をするのである。獣医学類の学生は英語でポスターを作成する。収穫物は学生たちがそれぞれ持ち帰る。しかし、葉菜類を栽培すると、夏休みの間に水やりが足りないと枯れてしまうなど失敗する可能性が高まるので、先生方はジャガイモなどの根菜類を推奨している。筆者もこの年の春、担当した学生たちに「安全なジャガイモ」を栽培品目リストに入れるように言った記憶がある。

 ところがこの年、ジャガイモは育たなかった。ジャガイモはそもそも厳しい環境でも育つ作物であり、南米からやって来て、ヨーロッパを飢餓から救ったことで有名である。そのジャガイモが全滅したのである。ジャガイモを植えた所を掘り返してみても、何もない。どうやら種イモが腐って土に吸収されてしまったようだ。この予定外の出来事は、学生たちをがっかりさせた。しかし、農家の方々の気持ちを理解するという点では、例年とはまた違った意義があったといえるかもしれない。

 それでも「収穫感謝祭」は行われる。収穫感謝祭は、その年の収穫を神に感謝する行事である。この年のように収穫が少ない年にも感謝できるのであろうか。農耕開始以来、人々は常に収穫に感謝し、豊作を祈願してきた。それは人間の努力を一瞬で水泡に帰すような事態が、これまで繰り返し起こってきたからである。世界中の収穫祭は、それでも神に感謝する行事として執り行われる。農民は、豊かな収穫を手にするためには努力が必要だと知っているが、同時に人間の努力だけでは十分でないことも知っている。収穫間際の作物が全滅した場合の落胆は想像に余りある。しかし、それでもまた気を取り直して立ち上がるのである。そこに人間の力の限界と、その先にある人間の底力を見ることができる。

 ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』シリーズには、真摯な米国開拓農民の苦闘が描かれている。何年も開拓に取り組んだ畑に見切りをつけて別の土地への開墾に出発するとき、ローラの父チャールズは「終わりよければすべてよし」とつぶやく。捨てねばならない畑に植えたニンジンが、野生のウサギの食料になるからだ。果てしない楽観主義と神への信頼が農業には必要とされるのだ。