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食品

世界の乳文化図鑑④ 現代の技術を生かした伝統飲料シュバットの復活

掲載日:2020.02.18

酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類
教授 石井 智美

注目される飲用効果

筆者は中央アジアのカザフスタン共和国(以下、カザフスタン)を度々訪れています。2013年3月に調査で訪れたアルマティ市は、カザフ語でリンゴを意味する古都です。カザフスタンはヒトコブラクダとフタコブラクダが混在して飼われている特異な国で、日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ゆったりしたとてもすてきな国です。かつてはシルクロードの交易路上に位置し、遊牧民も多かったのですが、近年は定住化が進みました。

都市部の食品店をのぞくとディスプレーも洗練され、ヨーロッパと地続きであることを実感します。乳製品の種類も量も豊富ですが、販売されているチーズは圧倒的に海外製が多く、ドイツ製のシェアが最も高く、次いでロシア製でした。ラクダの乳は飲むと「とても甘い」という印象でしたが、乳自体の販売はしていませんでした。

ラクダ乳は乳酸菌と酵母で発酵させた飲料「シュバット」として2社が販売していました。近年、モンゴルと同様に健康志向が強まり、遊牧民の間で伝承されてきたシュバットの飲用効果が注目されています。ちなみに、その効果のメカニズム解明はこれからです。

工場製シュバットの登場

この時はアルマティ市から南西130kmにあるシュバット工場を訪問しました。48歳(当時)のオーナーはカザフスタンで成功した企業家として著名な人です。家業のラクダ飼育を継ぎ、1980年代にフタコブラクダから乳量の多いトルクメニスタン産のヒトコブラクダ(トルクメンアロアナ)に飼育する品種を変え、その乳を用いてシュバット製造まで一貫して行っています。農場数カ所を所有し、ヒトコブラクダ約2,000頭を飼育しています。

工場製シュバットは登場してからまだ10数年ほどですが、シュバットはカザフスタンでも都市などでは長らく飲まれることがなく、極めて少ない飲み物だったそうです。

製造方法と製品の特徴

ラクダは泌乳期間が長く、シュバットは工場での通年製造が可能です。自家農場のラクダ乳を集めて殺菌し、フランスのDanisco社の乳酸菌と酵母をスターターに28℃で8時間培養した後、冷却して専用容器に分注して完成します。

容量900mLのシュバットは独特な形をした容器で販売され、店頭でも目を引きます。かつて自家製シュバットは、ラクダの胃や牛の皮で作られた発酵乳酒を入れる専用の容器「トルスク」に入れていました。出掛けるときにはトルスクの持参が欠かせなかったそうです。博物館では凝った細工のトルスクを見ることができます。

工場製シュバットは冷蔵庫で20日間保存でき、アルコール度数は1%未満、開封しても炭酸ガスの影響で中身が吹き出ることはありません。オーナーによれば、フタコブラクダの方が乳の味は濃いものの、乳量はヒトコブラクダよりも少ないそうです。また、発酵のスターターとして乳酸菌と酵母を使うのは馬の乳で作る馬乳酒と同じですが、シュバットは連続的な攪拌かくはん作業を一切しません。これは乳中の乳糖量が多いため、アルコール生成を促進させようとする馬乳酒の製造方法との大きな違いです。

都市に住む知人宅でも「健康に良い飲み物だから…」と週に1~2回は買っていました。カザフスタンでは冷蔵庫に牛乳とシュバットは並んでいます。価格は900mLで565テンゲ(約400円)でした。

今、カザフスタンでは民族飲料のシュバットが最新設備の工場で製造され、通年飲用も可能になりました。現代の技術を生かした伝統飲料の復活ですね。

 

≪参考リンク≫
『世界の乳文化図鑑② ラクダ乳の利用』
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/journal/2551.html

世界の乳文化図鑑④ 現代の技術を生かした伝統飲料シュバットの復活

ヒトコブラクダの親子

世界の乳文化図鑑④ 現代の技術を生かした伝統飲料シュバットの復活

訪問した時期は出産ラッシュだった

世界の乳文化図鑑④ 現代の技術を生かした伝統飲料シュバットの復活

シュバットの研究施設