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食品

世界の乳文化図鑑⑥ 喫茶とミルク

掲載日:2020.04.15

酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類
教授 石井 智美

イギリスのミルクティー

新しい年度が始まりました。新入学児童には、学校給食の始まりが待ち遠しいですね。その学校給食で「牛乳を毎日飲んだ」との記憶を持つ人も多いことでしょう。余談ですが、牛乳を継続して飲んだことで、日本人の身長はこれまでの最高になったともいわれています。

今回は喫茶と乳のお話をしましょう。イギリスで牛乳の利用といえばミルクティーです。かつてカップに注ぐ順番について「紅茶の後でミルクを入れるのか」「ミルクの後に紅茶を注ぐのか」、はたまた「一緒に注ぐのか」との熱い議論が交わされたそうです。なんともゆったりとした大人の話題ですね。その後、科学的においしいミルクティーは、温めたミルクを先にカップに入れ、そのあとで紅茶を注ぐのが良いと決着したそうです。このミルクティーによる牛乳の消費量も結構な量になります。

イギリスで販売されている牛乳の中には、有機農法に関心の高いチャールズ皇太子御用達のマークが付いているものもあります。ちなみに、その容器はポリ製でした。

フランスのカフェオレ

一方、フランスではコーヒーとミルクでカフェオレです。作るときにミルクの順番が話題になったことはありませんね。その代わりでしょうか、ミルクの量に好みがあるようです。

フランスでカフェオレを飲む場合、日本の味噌汁のおわんよりもはるかに大きな取っ手のない陶製のボウルが利用されています。最近、わが国でも愛用者が増えています。こうした飲用の仕方は、牛乳を苦手とする人でも牛乳が温かいので腸管の負担になりません。牛乳を摂取する機会としてぜひ、お茶の時間を活用していただきたいですね。

トルコのアイラン

わが国では牛乳を発酵させたヨーグルトの味は無糖か加糖ですが、トルコでは塩味を加えます。0.8%(ちょうど汁物の塩分量)の塩水を加えて混ぜた“アイラン”です。一見すると牛乳そっくりで、トルコの自動販売機で紙パックに入ったアイランを見て、いかに生活に溶け込んでいるかを実感しました。実は、筆者はトルコ語が読めず、牛乳と思って購入したことがありました。

アイランと似た呼称で“アラック”“アルヒ”など蒸留した酒を示す呼称があります。トルコが1922年まで名乗っていた「オスマントルコ」は、チンギス・カンの子孫「黄金の氏族(アルタン・ウルク)」によって建国されたことが言語学的に反映されているのです。ちなみに、モンゴル国の遊牧民も発酵乳を水で割った飲み物をアイランと呼んでいます。

トルコでは宗教的な理由から飲酒が禁止されているため、食事の時の飲み物としてアイランは欠かせません。コップになみなみと注ぎ、外側に一筋の泡を盛大に流して供します。そんなトルコの飲み物で最も知られているのは、粗びきのコーヒー豆を取っ手付きの専用鍋で煮出したトルココーヒーです。小さなカップに砂糖をたっぷりと加え、何杯も飲むのです。チャイ(トルコ式の紅茶)も好まれていますが、トルコでは紅茶にもコーヒーにもミルクは入れません。ヨーロッパの喫茶の方法とは異なるのです。ちなみに、イスラム世界の産品だったコーヒーの味や香りの誘惑に負け、教会はコーヒー豆に洗礼を授け、キリスト教世界のヨーロッパで受け入れることとしたそうな…。

豊かなイスラム文化における乳利用には、まだまだわれわれを驚かせる情報がありそうですね。

世界の乳文化図鑑⑥ 喫茶とミルク

トルココーヒーのミル(左)と取っ手付きの専用鍋