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食品

世界の乳文化図鑑㉔ 乳とコメ

掲載日:2021.10.20

酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類
教授 石井 智美

東西の境界線にヒント

コメはさまざまな穀類の中で単位面積当たりの収量が最も多く、エネルギー源として栄養面で大変重要であり、かつ精神的にも特別な作物としてわが国の“食の根幹”を支えてきました。

私たちは物事を考えるとき、複数のものについて「比較する」というアプローチを行ってきました。“食”においても、東は日本を含む東アジアの「コメと魚」に対して、西はヨーロッパなどの「パンと肉」といった比較がなされています。この東西という区分には境界域(バッファーゾーン)が存在します。それらの地域は、東西をつないできた地域でもありました。

さて、長い間「コメと魚」を食べてきたとされるわが国ですが、明治初期にすき焼きが爆発的に広がったことはよく知られています。しかし、その理由は文明開化だけで語れるものではないことは、意外にもあまり知られていません。すき焼きが広がったのは、江戸期にあった鶏鍋の料理形式が明治のすき焼きに応用されたためでした。そして歌川広重の浮世絵に、イノシシを示す「山くじら」の文字が大きく書かれた看板が描かれていたことからも、既に肉食の経験があったことが分かります。

このように食べ物の守備範囲が広いわが国で、これからの「乳とコメ」の利用を考えていく場合、そのヒントは前述の“バッファーゾーン”にありそうだと筆者は考えています。そこはインドの上方、中国の少数民族が住む雲南省からブータン、チベット、カザフスタン、トルキスタンに至る地域です。これらの地域では家畜を飼ってその乳を利用し、コメは自給もしくは入手が可能で、乳とコメが食生活に溶け込んでいます。かつてのシルクロードも含まれており、そのシルクロードは乳加工法が東西に伝わった“ミルクロード”でもありました。乳を発酵させるために微生物、動物性もしくは植物性の酵素を利用する伝統的な乳加工を精緻せいち化し、発酵乳やチーズを作ってきた地域でもあるのです。

カザフスタンのミルク粥

2013年の夏、筆者はカザフスタンの村で「乳とコメ」に関する調査をしてきました。調査先では自家で飼う牛の乳をクリームセパレーターにかけ、比重によって分けたクリームからバターを作り、パンと共に食べていました。この自家製バターに塩は加えません。週に2~3回は朝、炊いたご飯に温めた乳を加えたミルク粥(カーシャ)を作っていました。食べるときに溶かしたバターを加えます。まさに乳とコメが融合した一碗は、特別な料理ではなく日常食でした。

余談ですが、ロシアでは平皿に盛られ、周囲にグリーンピースを均等に散らしたミルク粥を食べました。ヨーロッパにはコメの代わりに麦を用いたオートミールがあります。ミルク粥とオートミールは「ミルク+穀類」という同じ発想から作られてきたのでしょう。

北海道の酪農家では忙しい朝、炊き立てのご飯に牛乳をかけて食べていたそうです。

牛乳かけご飯にバター

最近、和食に“乳”を取り入れる方法が紹介されていますが、筆者はおいしくて手早くできる北海道の酪農家の「牛乳かけご飯+バター」に注目しています。そして発酵乳にかかわってきたものとしては、乳を発酵させることでうま味をはじめとする各種成分が増えた「発酵乳の活用」が、発酵食品大国である日本ならではの食べ方の大きな鍵になる気がしています。

2年間のご愛読、ありがとうございました。

(おわり)

世界の乳文化図鑑㉔ 乳とコメ

カザフスタンの自家製バター

世界の乳文化図鑑㉔ 乳とコメ

カザフスタンのミルク粥