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道東地域の牧場における牛伝染性リンパ腫対策の取り組み(循環農学類・畜産衛生学研究室)

掲載日:2023.07.10

牛伝染性リンパ腫は、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV:Bovine Leukemia Virus)の感染により引き起こされる白血球増加や全身性の悪性リンパ腫を症状とする病気で、家畜伝染病予防法によって届出伝染病に指定されています。BLVに感染した牛の多くは臨床症状を示さないものの、約30%はリンパ球が恒常的に多い持続性リンパ球増多症となり、そのうち約1~5%は感染から数年で牛伝染性リンパ腫を発症します。発症牛は淘汰の対象となり、牛乳や食肉の生産ができずにすべて廃棄となります。そのため、本疾病は畜産農家に甚大な経済的損失を与える疾病と言えます。

日本における牛伝染性リンパ腫の発生頭数は、届出伝染病に規定された1998年以降右肩上がりに増加しており、2022年には4,334頭となっています(表)。また、BLV抗体陽性率も1980~82年に行われた調査では乳牛で約4%、肉牛で約7%でしたが、2009~2011年の調査では乳牛(6カ月齢以上)で40.9%、肉牛(繁殖雌牛)で28.7%に増加しています。発生は全ての都道府県で確認されており、特に乳牛・肉牛ともに飼養頭数が全国最多の北海道においては、届出頭数も全国最多となっています。

BLVは血液や乳汁を介して伝播することから、以下のような対策が有効です。
① 注射針や直検手袋を使い回さない。
② 除角、去勢、削蹄など出血を伴う処置をする場合、その器具を十分に消毒する。
③ 吸血昆虫(サシバエやアブ)が牛舎内に侵入しないよう、牛舎周囲に防虫ネットを設置する。
④ 吸血昆虫や外部寄生虫(マダニ)が牛に付かないように、殺虫剤を畜体に散布したり、耳標型外部寄生虫駆除剤を装着する。
⑤ 感染牛由来の乳汁を子牛に与えるときは、乳汁を凍結または加温(56℃、30分)してから与える。
※ 防虫ネットの設置や駆除剤の装着は、吸血昆虫・外部寄生虫の発生時期の前に行う必要があります。

 

循環農学類畜産衛生学研究室(2013~2020年度:髙橋俊彦教授、2021年度~現在:菊佳男教授)では、2013年から毎年道東地域の牧場において防虫ネットの設置と耳標タイプ外部寄生虫駆除剤装着による牛伝染性リンパ腫対策に取り組んでいます。この牧場の取り組み開始当時のBLV抗体陽性率は70%台と非常に高率でしたが、2021年には20%台まで低下しており、これらの対策の効果を実感しているとのことです。

今年は菊教授、福田茂夫講師(獣医学類生産動物病態学ユニット)と研究室所属学生12名全員で5月中旬に牧場を訪問し、1日目に成牛牛舎への防虫ネット取り付け作業、2日目に哺育・育成牛への耳標型駆除剤装着作業を行いました。

防虫ネット取り付け作業では、まず昨年のネットを取り外しました。その後、高さ2m、幅20mほどの防虫ネットを手分けして支え、牛舎の壁に結束バンドで固定していきました。また、結束バンドの余った部分はニッパーで切り取りました。3年生にとっては初めての作業でしたが、4年生にアドバイスを受けながら作業を進め、2時間ほどで取り付けを終えました。

耳標型駆除剤の装着では、牛をスタンチョンなどに誘導・保定する人と、牛に駆除剤を装着する人に分かれて作業を行いました。警戒した牛がスタンチョンに入らなかったり、耳に触れられるのを嫌がって装着に苦戦する場面もありましたが、牧場の方や防虫資材販売企業スタッフの協力・指導を得ながら作業を進め、こちらも2時間ほどで作業を終えました。

作業後は牧場の方や企業の方との懇談を楽しむ学生の姿が見られたほか、初めて参加した3年生からは作業を進める上での改善点や「来年もがんばりたい」など、早くも次回に向けた声が上がりました。

 

参加した学生のコメント

久保田くぼた しょうさん(4年生 ゼミ長)

駆除剤装着では、牛を捕まえたりスタンチョンに誘導したりする作業が大変でしたが、4年生は昨年の経験を活かしながら作業を進められたので、昨年と比べて作業時間を短くすることができました。防虫ネットの取り付けは2班に分かれて作業を進め、みんなで協力してお互いの班の進行状況を見ながらもう一方を手伝うなど、臨機応変に対応することができました。
この遠征は、受け入れてくださる酪農家さんを始め、作業を手伝ってくださる業者さんなど、さまざまな業種の方々とお話しできる貴重な機会です。毎回新しい発見があり、とても良い経験ができたと思います。

 

國島くにしま 梨夢りむさん(3年生)

  防虫ネットや駆除剤は、牛を虫の被害から守るものなのでとても大切だと思います。だからこそ、ネットがたるんだり隙間が空いたりしないようにするのに気を使いました。翌日改めて自分が担当した場所を確認すると、きれいに取り付けできていて、達成感がありました。
駆除剤の取り付けも初めての作業でしたが、失敗すると牛が痛い思いをするので、取付ける場所や力の入れ方を考えて作業を進める必要があると感じました。
農場の方や先輩たちに協力してもらったことで作業を無事終えることができましたし、最後にすべての牛に駆除剤が付いている様子を見て、こちらも達成感がありました。来年もがんばりたいです。
※駆除剤は耳の血管を避けて装着する必要があり、位置を誤ると出血する

 

安藤あんどう 薫生かおるさん(3年生)

どちらも初めての作業でしたが、作業を進めるうちにだんだんとコツを掴むことができました。防虫ネットは目が細かく、1年に1度の張替えのため隙間に粉塵がたまってしまっている箇所がありました。剥がすときに粉塵が舞い上がってしまうことがあったので、防護メガネがあるとより作業がしやすいと思いました。
駆除剤の取り付けでは、アプリケーター(装着器)を扱うための握力が足りず、なかなか取り付けられないことがありました。牛にストレスをかけてしまったので、女性でも使いやすい道具や、より簡単な取り付け方法があれば、人にとっても牛にとっても良いなと思いました。

 

 

牛伝染性リンパ腫について詳しい解説はこちらのページをご覧ください。
農場のバイオセキュリティを考える ≪第7回≫酪農現場で問題になる感染症
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/3311.html

【参考】
畜産衛生学研究室(酪農学園大学Webサイト 教員・研究室一覧)
https://www.rakuno.ac.jp/archives/teacher/14498.html
公益社団法人中央畜産会「牛白血病に関する衛生対策ガイドライン」
https://jlia.lin.gr.jp/eiseis/pdf/standard/guide0302.pdf