鳥インフルエンザウイルスの基本的情報と感染予防に関するQ&A
掲載日:2023.03.01
編集者
酪農学園大学
教授 萩原 克郎
京都府立医科大学
講師 大道寺 智
Q.鳥インフルエンザとはどのような病気ですか?また鳥にどのような症状を起こしますか?
Q.家禽肉や家禽卵を食べてインフルエンザにかかることはありますか?
Q.鳥インフルエンザが人に感染するのはどのような場合ですか?
Q.新型インフルエンザはどのように発生するのですか?人への影響はどのようなものですか?
Q.鳥インフルエンザが人に感染するとどのような症状を示しますか?
Q.鳥インフルエンザが人に感染すると重症化することがあるのはなぜですか?
Q.鳥インフルエンザが人に感染した場合に治療することはできますか?
Q.これまでに人に感染した鳥インフルエンザのウイルスの型にはどのようなものがありますか?
Q.これまでに日本で鳥インフルエンザが人に感染した例はありますか?
Q.季節性インフルエンザのワクチンを打っておけば、鳥インフルエンザの人への感染は防げますか?
Q.海外では鳥インフルエンザウイルスの人感染例が報告されている一方で、日本ではこれまで日本国内で同ウイルスに感染し、発症した例が確認されていないのはなぜですか?
Q.高病原性鳥インフルエンザを予防するためには、どのようにしたらいいですか?
Q.鳥インフルエンザに感染するかもしれないので鳥をペットとして飼わない方が良いでしょうか?
Q.飼育している鳥が元気がないのですが、鳥インフルエンザに感染しているのでしょうか?
Q.インフルエンザウイルスとはどのようなウイルスですか?
A.インフルエンザウイルスにはA、B、C、Dの4型がありますが、そのうちA型インフルエンザウイルスには、ウイルス表面タンパク質のヘマグルチニン(HA:赤血球凝集素)(1~18の型がある)とノイラミニダーゼ(NA)(1~11の型がある)の組み合わせによってさまざまな亜型のウイルスが存在します(例:H1N1、H3N2)。水禽 類(カモ類)はA型インフルエンザウイルスの自然宿主であり、水禽類は多くの亜型のウイルスを保有しています。その一方で、A型インフルエンザウイルスは家禽 、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ミンク、人といったさまざまな哺乳類に感染することが知られています。人の季節性インフルエンザウイルスは、水禽類を起源とするウイルスがさまざまな過程を経て、人に感染しやすく変化したウイルスだと考えられています。
Q.鳥インフルエンザとはどのような病気ですか?また鳥にどのような症状を起こしますか?
A.鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気です。
鳥インフルエンザは本来、水禽類(カモ類)において無症状で維持されていたものが、家禽(ニワトリ、七面鳥など)に感染が広がったものになります。その亜型やウイルス種によって、家禽に対する病原性が異なり、病原性の程度により「高病原性鳥インフルエンザ」「低病原性鳥インフルエンザ」などに分類しています。家禽で高病原性鳥インフルエンザが発生すると、元気消失、食欲・飲水の減退、産卵率低下、呼吸器症状、下痢、肉冠・肉垂の腫れに加え、チアノーゼ、脚部の浮腫や皮下出血・壊死、神経症状などが見られ、その多くが死んでしまいます。一方、家禽で低病原性鳥インフルエンザが発生すると、不顕性感染(症状が出ない)の場合もありますが、一時的な元気消失、軽い呼吸器症状が出たり産卵率が下がったりする場合もあります。ただし、低病原性鳥インフルエンザウイルスの場合、家禽で感染を繰り返すことで高病原性鳥インフルエンザウイルスに変化する場合があので、注意が必要です。
Q.鳥インフルエンザウイルスはどこからやってくるのですか?
A.日本に飛来する渡り鳥を中心に運ばれてきます。日本に飛来する渡り鳥は遠く北方(シベリア)より飛来してくるものが多く存在します。これらの渡り鳥は日本へは秋に飛来して越冬し、その後春に再び北方へ渡去します(冬鳥)。これらには、ガン類、ハクチョウ類、カモ類などが含まれます。また北半球の高緯度地域にある繁殖地と南半球の越冬地を往復し、春と秋の一時期のみ日本を通過する鳥(旅鳥)も日本に飛来します。これらにはシギ類、チドリ類などが含まれます。これらの渡り鳥を中心にウイルスが運ばれてくるため、鳥インフルエンザの国内での発生例は秋から春を中心に見られます。
Q.家禽肉や家禽卵を食べてインフルエンザにかかることはありますか?
A.我が国ではこれまで、家禽肉や家禽卵を食べて、鳥インフルエンザウイルスに感染した例は報告されていません。
なお、鳥インフルエンザウイルスは加熱すれば感染性がなくなります。万一食品中にウイルスがあったとしても、食品を十分に加熱して食べれば感染の心配はありません。加熱するときは、食品全体が70℃以上になるようにしましょう。家禽肉の場合は、ピンク色の部分がなくなるまで加熱するとよいでしょう。
▷家禽卵は、国内では生で食べることを考えて生産されていますが、不安な方や体調の悪い方は、加熱(WHOの食中毒防止のための加熱条件:中心部70℃、瞬間)することをおすすめします。
Q.鳥インフルエンザには消毒薬が有効ですか?
A.鳥インフルエンザウイルスは季節性のインフルエンザウイルスと同様に、多くの消毒薬で不活化できます。医療現場でよく使用されるアルコール系の消毒薬あるいは畜舎で使用する塩素系(ビルコン)などにて速やかに不活化されます。
Q.鳥インフルエンザが人に感染するのはどのような場合ですか?
A.鳥インフルエンザにかかった鳥の羽や粉末状になったフンを吸い込んだ場合や、食肉処理の過程で発生する飛沫を吸い込んだり、感染鳥の内臓に触り汚染された手を介して鼻、口からウイルスが入るなど、大量のウイルスに暴露された場合に、感染することがあります。日本国内ではあまり見られませんが、生きた鳥を扱う市場や、家庭用に家禽をと殺、解体するような環境が感染しやすい要因の一つとして知られています。鳥と人には種の壁があるために鳥から人へ容易には感染しませんが、一度に大量のウイルスを吸い込むと感染する恐れがあります。なお、海外では、人から人へ感染したことが疑われる事例が報告されています。ただし、現時点では人-人感染の事例は家族内での濃厚接触など限られた条件に限られています。日本では、家禽のモニタリングと、病鳥の殺処分により鳥インフルエンザの発生を予防しています。もし、地面に落下した野鳥や感染が疑われる鳥と接触した後に、突然の高熱や咳、全身のだるさ、筋肉痛などインフルエンザを疑う症状が現れたら、近くの保健所に相談し、前もって医師に連絡をした上で受診しましょう(受診方法など、詳細は医師の指示に従ってください)。鳥インフルエンザに感染してしまった場合には、ウイルスが体内で大量に増殖する前の早い段階での受診が重要になります。
Q.新型インフルエンザはどのように発生するのですか?人への影響はどのようなものですか?
A.「新型インフルエンザ」は、鳥類にのみ感染していた鳥インフルエンザウイルスが、当初は偶発的に人に感染していたものが、遺伝子の変異によって、人の体内で増えることができるように変化し、さらに人から人へと効率よく感染するようになったものです。図(厚生労働省資料)に示すように、鳥由来のウイルスと豚あるいは人由来のウイルスが同時に豚などで感染すると、インフルエンザウイルスの遺伝子が入れ替わり全く新しい型のウイルスが出現します。このような新型インフルエンザウイルスは、人にとっては未知のウイルスで免疫を持っていないため、容易に人から人へ感染して拡がり、急速な世界的大流行(パンデミック)を起こす危険性があります。よって、この感染サイクルを遮断する、人の移動や畜舎配置が必要となります。過去に発生した新型インフルエンザウイルスに罹患 した人の致死率は、毎年流行するインフルエンザの5倍以上に増加し、重症化患者数が増えることが指摘されています。社会経済活動に支障をきたし、従業員の4割近くが欠勤するとの想定結果が示されています。
Q.鳥インフルエンザに感染したら入院が必要ですか?
A.鳥インフルエンザに感染し、H5N1亜型およびH7N9亜型と診断された場合には、感染症法の「二類感染症」に該当し、入院勧告となります。それ以外の亜型と診断された場合には入院勧告の必要はありません。ただし、亜型とは関係なく症状が強い場合には自ら入院が必要となることもあるので注意が必要です。
Q.鳥インフルエンザが人に感染するとどのような症状を示しますか?
A.人が鳥インフルエンザに感染し発症した場合、その病態は軽度の結膜炎から重症肺炎に至るまでさまざまです。
Q.鳥インフルエンザが人に感染すると重症化することがあるのはなぜですか?
A.人の深部呼吸器(細気管支、肺胞)には鳥インフルエンザウイルスが結合する受容体が存在すると考えられており、そのため、(ウイルスの亜型や種類によって異なりますが)一度に大量のウイルスを吸い込んでしまうと、深部呼吸器(肺)を中心に感染する恐れがあります。肺炎などを起こし重症化することもあるので注意が必要です。また季節性のインフルエンザと異なり、鳥インフルエンザはこれまで人同士の間で流行していないため、私たちは鳥インフルエンザウイルスに対する免疫を保有していません。そのことも感染後重症化しやすい要因の一つと考えられます。
Q.鳥インフルエンザが人に感染した場合に治療することはできますか?
A.鳥インフルエンザウイルスであっても、季節性インフルエンザウイルスの治療に使用されるオセルタミビル(タミフル:経口)、ザナミビル(リレンザ:吸入)、ラニナミビル(イナビル:吸入)やペラミビル(ラピアクタ:点滴)などの抗インフルエンザウイルス薬が有効とされています。ただし、発症してからある程度早期に服用しないと十分な効果が得られないので早期受診が必要です。
Q.鳥インフルエンザは動物に感染しますか?
A.これまでにネコ、トラ、ヒョウ、アライグマ、イエネズミなどで鳥インフルエンザウイルスに感染した例、もしくは感染が疑われる例が報告されています。鶏舎への侵入を防ぐ対応が感染防御に必要です。
Q.これまでに人に感染した鳥インフルエンザのウイルスの型にはどのようなものがありますか?
A.これまでに人に感染例が報告されているウイルスの亜型としてH5N1、H5N6、H5N8、H6N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、H10N3、H10N7、H10N8などがあります(いずれも海外事例)。
Q.これまでに日本で鳥インフルエンザが人に感染した例はありますか?
A.これまでに日本では発症した人は確認されていません。
Q.季節性インフルエンザのワクチンを打っておけば、鳥インフルエンザの人への感染は防げますか?
A.人の季節性インフルエンザウイルスの亜型と、人でこれまで感染が報告されている鳥インフルエンザウイルスの亜型はそれぞれ異なるために、季節性インフルエンザのワクチン接種後に獲得される免疫は、鳥インフルエンザには有効ではありません。そのため、季節性インフルエンザのワクチンを打っていても、鳥インフルエンザの感染防御や重症化の予防には有効ではありません。
Q.鳥インフルエンザを撲滅することはできないのでしょうか?
A.これまでに人類が根絶に成功した感染症として天然痘がありますが、これには、天然痘は不顕性感染(無症状感染)が少なく、人以外に感染しないといったことが関係しています。そのため、天然痘ワクチンの接種普及により根絶に成功することができました。一方、鳥インフルエンザウイルスは水禽類(カモ類)を自然宿主としており、症状なく静かに感染維持されています。また鳥インフルエンザウイルスが人獣共通感染症であることからも、撲滅することは極めて難しいと言えるでしょう。
Q.海外では鳥インフルエンザウイルスの人感染例が報告されている一方で、日本ではこれまで日本国内で同ウイルスに感染し、発症した例が確認されていないのはなぜですか?
A.日本では、家禽飼養農場で高病原性鳥インフルエンザまたは低病原性鳥インフルエンザが発生した際には、家畜伝染病予防法に基づいた、発生農場の飼養家禽の殺処分、焼却または埋却、消毒、移動制限などの防疫措置が実施されます。その結果、ウイルスで汚染された家禽肉、家禽卵が市場に出ることはありませんし、発生農場周囲へのウイルス拡散防止に努めています。国内での人の感染・発症例がこれまで報告されていないのは、このような徹底した対応の結果と考えられます。
Q.高病原性鳥インフルエンザを予防するためには、どのようにしたらいいですか?
A.一般的な飼養衛生管理の強化と徹底により、鶏舎内に野鳥、野生動物、人、物を介して高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)を持ち込まないことが最も重要です。農林水産省では家禽のための衛生管理ガイドラインや飼養衛生管理基準を定めています。都道府県ではこれらの基準に従って、定期的に農場を検査して、農家の方々の防疫意識の向上、定期的な健康観察、衛生管理区域の設定や消毒の徹底、防鳥ネットなどによる野鳥の鶏舎への侵入防止などを図っています。環境省では死亡野鳥や野鳥のふん便の検査を行い、国内に侵入したHPAIVをできるだけ早期に発見できるように努めています。
Q.鳥インフルエンザに感染するかもしれないので鳥をペットとして飼わない方が良いでしょうか?
A.野鳥類と隔離されて家庭で鳥を飼育している限り、鳥インフルエンザに感染するリスクは低いと考えられます。特に室内飼いの場合には、飼育鳥が感染するリスクは極めて低いでしょう。庭などで飼育している場合には、飼育ケージの中に野鳥が入らないようする、飼育ゲージに野鳥を近づけないようにするなどの工夫をし、飼育鳥と野鳥を近づけない工夫が大切です。また、飼育鳥の水や餌を野鳥のふんなどで汚染しないようにすることが大切です。
Q.飼育している鳥が元気がないのですが、鳥インフルエンザに感染しているのでしょうか?
A.鳥の病気にはさまざまなものがあるので、「元気がない=鳥インフルエンザ」ということにはなりません。特にペットとしてよく飼われる小鳥は温度などの環境変化にも敏感で、体調不良の要因を容易に特定するのが難しい場合もあります。ただし、特に小鳥は体力的にあまり丈夫でなく、急激に体調が悪化することも多いため、飼育鳥の様子がおかしい場合には、早期に専門の獣医師を受診することが大切です。一方で、鳥や動物は細菌、ウイルス、寄生虫など、さまざまな微生物を保有している可能性があるので、飼育鳥の体調の良し悪しに関わらず、鳥の世話をした後や、ふんに触れた後などは良く手を洗うことが大切です。
※本Q&Aは、農林水産省「鳥インフルエンザについて知りたい方へ」、厚生労働省「インフルエンザQ&A」をもとに改編した。