水溶性タンパクの高い高水分サイレージに即効性のあるエネルギーとしてブドウ糖がいいと聞きますが、給与量はどれくらいですか?
掲載日:2019.09.12
水溶性タンパクの高い高水分サイレージに即効性のあるエネルギーとしてブドウ糖がいいと聞きますが、給与量はトップドレスで上限は何グラムでしょうか。
やりすぎでアシドーシスにはならないのでしょうか。
実際、ブドウ糖を与えてアンモニアの無駄が減ったとかデータとしてあるのでしょうか。
こちらは、飼料中タンパク質とエネルギーのルーメン内における「分解同期化」に関する質問になります。
微生物が、自らのタンパク質を合成するためには、タンパク質の材料となる窒素源、具体的にはアンモニアが必要です。
一方、材料であるアンモニアがあっても、組み立てるためのエネルギーがないとタンパク質は合成できません。
つまり、タンパク質が分解されて、アンモニアになったときに、微生物が利用可能なエネルギーがあると、微生物は自分たちの体(すなわち微生物タンパク質)を作ることができます。
これが、タンパク質とエネルギーの「同期化理論」になります。
水溶性タンパク質は分解速度が速いので、これらを豊富に含む高水分サイレージや放牧地草は、牛に食べられるとルーメン内で急速に分解されて、アンモニアになります。
アンモニアがルーメン内で急増するタイミングに合わせて、エネルギーをルーメン内に用意してやるには、二つの戦略が考えられます。
一つ目は、水溶性タンパク質と同程度の速い分解速度を持つ水溶性炭水化物を与えるという戦略です。
質問にあったように、ブドウ糖などの糖類は分解が早いので、高水分サイレージなどと同時に給与すると、ルーメン内で同期化されます。
二つ目は、分解の遅いエネルギー源を使う場合、牛に与えてからルーメン内で分解されるまでの時間を逆算して、高水分サイレージなどを与えるよりも前に牛に食べさせておくという戦略です。
たとえば、食べられてからルーメン内で微生物が利用可能なサイズに分解されるまでに1時間かかるエネルギー飼料であれば、高水分サイレージを与える1時間前に牛に食べさせます。
そうすると、1時間後にはアンモニアとエネルギーが同期化します。
ルーメン内の分解に要する時間は、エネルギー飼料が圧ぺんトウモロコシなのか、ビートパルプなのか、はたまた粗飼料なのかによって異なってきます。
ブドウ糖をどれくらい与えるとアシドーシスになるかといった具体的な事例は過去の研究論文では、探しきれませんでした。
参考までに、860g/日の砂糖を挽き割りトウモロコシと置き換えて、分娩直後の泌乳牛に給与した試験(Penner and Oba, 2009)では、砂糖給与によってルーメンアシドーシスが改善される傾向がみられたことを報告しておきます。
※追記(2019.9.18)
Q
ブドウ糖で同期化は原理として理解できましたが、ブドウ糖がなくても、第一胃には大量の食塊があるわけで、それがエネルギー源になりえませんか。
ブドウ糖を与えることは有効だという報告はあるのでしょうか。
乳成分の変化や乳量の増加などにより証明できたりするのでしょうか。
A
ブドウ糖以外のエネルギー源についてですが、まさしく、おっしゃるとおりです。
ブドウ糖は、ルーメン微生物にとっては、数多くあるエネルギー源の一つにすぎません。
ブドウ糖以外にも、ルーメン内容物は様々な栄養素を含んでおり、それらが多様なエネルギー源として微生物たちに利用されています。
ブドウ糖以外で考えますと、とりわけデンプンや分解の早い副産物系の繊維は、微生物のエネルギー源として適していると思われます。
ここから先は、私の私見と探した範囲での回答になります。
ブドウ糖を給与した研究報告やレポートを、私は見たことがありません。
したがって、ブドウ糖給与と乳生産の関連についても、残念ながらお答えすることができません。
コストに見合わないことと、ルーメン内での分解が早すぎることが、ブドウ糖給与が生産現場で普及しない理由だと考えられます。
【回答者】
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授 泉 賢一