質問コーナー

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Q&A

牧草追肥は施用するのとしないのとでどの程度収量に差が出ますか?

掲載日:2022.07.28

Q

肥料価格が高騰しており、牧草追肥を控えようかと考えています。
追肥を施用する、しないでどの程度収量に差が出ますか?
そういった研究事例を教えてください。

A

肥料価格の大幅な高騰で、ご苦労されている皆さまにお見舞い申し上げます。

草地への施肥は、当年の収量だけでなく、翌年以降の草種構成への影響を考慮する必要があります。全道的によく使われるチモシーを基幹とする採草地の場合、年間収量の3分の2を1番草で確保できるため、特に草地面積に余裕のある農家では、施肥を早春のみとし、1番草収穫後の施肥を省略する場面が、実はよくあります。しかし、チモシーは1番草で大半の分げつが出穂し、収穫後はそれらが一斉に枯死して新しい分げつに世代交代するので、この時期に栄養状態が劣悪になると分げつ密度の確保が困難になり、雑草に負ける原因になります。つまり、単年度の草量は確保できても、草種構成が悪化して次年度のチモシーの衰退につながります。このあたりの理屈は、「草地学の基礎-維持管理の理論と実際(農文協)」63ページに図入りで解説されています。

でも、化学肥料の購入はできるだけ控えたいですよね。方法としては、目新しい技術ではありませんが、まず、土壌診断を行って、必要最低限の肥料養分量を算定すること、そして、牛舎から産出される家畜ふん尿を堆肥やスラリーに調製し、できるだけ有効に利用することです。こうすることで、牧草生産性と飼料品質を低下させず、または改善させつつ、購入肥料費を平均30%ほど抑制できることが実証されています。この30%は、ある程度推奨施肥量を守っていた農場に対し、土壌診断やふん尿利用を厳密に適用した結果です。改善前がまったくの慣行施肥の場合には翌年肥料費が半減する場合もありました。

2008年に肥料価格が1.6倍に値上がりした時、多くの酪農家が施肥量を絞り、その結果2009年年明けには粗飼料不足に陥ってロールを購入する酪農家が増えました。調査はしていませんが、草種構成にも良くない影響が出たのではないかと思っています。
できるだけ資源を有効に活用して無駄をなくす方向で、経費節減を図っていただけたらと思います。ふん尿利用計画を比較的簡単に立案できるソフトも開発されています。

【参考リンク】
・牧草を飼料基盤とする酪農場における施肥改善技術導入効果の実証(北海道農業試験場 研究成果一覧)
 http://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/26/f2/32.pdf
・ふん尿主体施肥の現地導入対策(北海道農業試験場 研究成果一覧)
 http://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/h17gaiyo/f7/2005704.pdf
・Improved manure and fertilizer practices changes nutrient dynamics in silage meadows on a dairy farm in eastern Hokkaido, Japan(Wiley Online Library)
 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/grs.12205
・環境に配慮した酪農のためのふん尿利用計画支援ソフト「AMaFe」(北海道農業試験場 研究成果一覧)
 http://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/h18gaiyo/f3/2006307.pdf
・AMAFE:家畜ふん尿利用計画支援ソフトウェア クラウド版
 https://amafe.farm/home/index.html


【回答者】
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授 三枝 俊哉