農場のバイオセキュリティを考える ≪第10回≫全国の農場における衛生モニタリング調査について
掲載日:2021.01.28
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授 髙橋 俊彦
酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程 北野 菜奈
はじめに
2011年4月に「家畜伝染病予防法の一部を改正」する法律が交付され、飼養衛生管理基準および特定家畜伝染病防疫指針の見直しが行われ施行されました。また、2020年6月にも改正が行われました。しかし、酪農現場において本来は実施するべき衛生基準が、多くの酪農場で実施されていないのが現状です。
そこで、以前実施した全国の酪農場における「衛生モニタリング調査」の結果を基に、酪農現場の衛生管理の実態について紹介します。
1.調査の内容
家畜伝染病予防法12条の3に基づく「飼養衛生管理基準」を基礎とした、衛生モニタリング調査表を作成し、全国の酪農場(北海道42件、東北3件、関西2件、九州2件の計49件)の衛生管理の実態を調査しました。
(1)調査表の質問事項
1)農場を衛生管理区域とそれ以外の区域に分け、両区域の境界が明確ですか。
→「はい」の場合、衛生管理区域への立ち入りを制限していますか。
2)農場へ出入りした人の名簿を作成していますか。
3)農場の各出入口に消毒設備が整っていますか。
→「はい」の場合、どのくらいの頻度で更新していますか。
4)農場へ出入りする車両への消毒を実施していますか。
→「はい」の場合、どこまで消毒していますか。
5)農場へ出入りする人への衛生対策は整っていますか。
→「はい」の場合、どこまで対策を取っていますか。
6)農場や畜舎に出入りする際、手を洗浄していますか。
7)畜舎の各出入口に踏み込み消毒槽を設置していますか。
→「はい」の場合、どのくらいの頻度で消毒液を交換していますか。
8)消毒剤は用途に応じたものを用い、希釈倍率は適切ですか。
9)作業着や作業靴は清潔なものを使用していますか。
10)自宅から農場または畜舎に通う靴と作業靴を分けていますか。
11)自宅から農場または畜舎に通う服と作業服を分けていますか。
12)ほかの畜産関連施設などへ出入りした服装で、自らの農場へ立ち入らないようにしていますか。
13)海外から帰国して1週間以内の人が畜舎に出入りしていませんか。
14)防鳥対策を行っていますか。
15)防虫対策を行っていますか。
16)野生動物に対しての対策を行っていますか。
17)飼槽は清潔ですか。
18)給水設備は清潔ですか。
19)畜舎の換気を行っていますか。
20)家畜を過密状態で飼育していませんか。
21)飼育している家畜の健康観察を毎日行っていますか。
22)畜舎や衛生管理区域内にある作業器具や作業道具を清掃・消毒していますか。
23)伝染性の病気にかかっている家畜に対して、作業道具を分けるなどの対策を行っていますか。
24)あなたの農場は過去10年間に重大な感染症(呼吸感染症、消化管内、ヨーネ、サルモネラ症、口蹄疫〔宮崎県〕、そのほか)にかかったことがありますか。
→「はい」の場合、どの感染症にかかりましたか。
25)家畜を導入する際、感染症などの検査を実施していますか。
→「はい」の場合、検査結果が出るまでほかの家畜と分けて飼育していますか。
26)家畜を出荷した際、その家畜がいたスペースを洗浄・消毒していますか。
27)敷料はどのくらいの頻度で交換していますか。
28)敷料はどのように交換していますか。
29)家畜防疫や家畜伝染病に関する最新情報を把握していますか。
30)あなたは自分の農場の衛生管理に自信がありますか。
(2)調査項目の分類
1)飼養形態、飼養規模、労働人数と農場自体の衛生に関する設問21項目(図1)
2)家畜の衛生に関する設問4項目(図2)
3)野生動物対策に関する設問3項目(図3)
4)衛生の意識に関する設問2項目(図4)
2.調査結果
<結果①>
北海道は本州や九州に比較して農場の衛生、家畜の衛生、野生動物対策、衛生の意識、すべてにおいて劣っていたが、特に衛生意識が劣っていた。
<結果②>
九州は全体的に衛生に対する取り組み、意識共に良好であった。
<結果③>
東北は衛生の意識は高くないが、農場自体の衛生、家畜の衛生、野生動物対策は良好であった。
<結果④>
関西は特に農場の衛生、野生動物対策で劣っていた。
これらの結果から地域間で大きな差がある事が分かりました。家畜の飼養頭数にかかわらず衛生管理は重要課題であります。感染症などの農場内伝播のみならず、地域への伝播が危惧される結果となっています。
感染症は、起きてからでは甚大な家畜の損出と経済的損失を招きます。「予防さえしていれば…」と思う人は多いはずです。このアンケート結果から見ても、意識をして衛生管理に気を使う事が大切であることが伺えました。酪農家や畜産技術者が衛生管理について再考し、現場で実施していく必要がある―と改めて考えさせられました。