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体力向上のための運動と運動の効果を高める牛乳の摂取について

掲載日:2019.05.31

酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類
准教授
 山口 太一

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
助教
 柴田 啓介

はじめに

わたしたちが健康に暮らすためには、適度な運動が必要であることはみなさんもご存知のことでしょう。適度な運動が必要であると考えられる理由のひとつは、運動が体力を高める効果を持つからです。運動によって高まる体力のうち、筋力と持久力が特に重要であると考えられています。なぜなら、ともに死亡率や有病率(病気になる確率)と関係があるからです。筋力だけでなく筋肉の量が多い方が、そして持久力が高い方が死亡率や有病率を低下させることが報告されています。一方、筋力、筋量、持久力のすべてが20歳以降、加齢にともなって低下することが知られています。では、どのようにして、筋力、筋量および持久力を増やしたり、維持すれば良いのでしょうか?
また、一時、牛乳は健康に悪いとの風評が流れました。実際に、スウェーデンの研究(Michaëlessonら、2014)によって、女性では牛乳の摂取量が多いほど総死亡率、骨折数、ガンならびに心臓血管系の疾患の罹患率が高いことが報告されました。しかしながら、近年になってこれらの結果も覆されています。21カ国を対象にした大規模な研究(PURE study、Dehghanら、2018)によって、牛乳および乳製品の摂取量が多いほど、男女の体型、総死亡率および心臓血管系の疾患の罹患率が低くなることが明らかにされ、牛乳・乳製品が健康に及ぼす好影響の方が優っているとの情報に変わってきています。さらに、牛乳は、運動後に摂取することで運動の効果を高めるスポーツドリンクのような役割もあるのではないかと考えられています(Jamesら、2018)。
本特集では、重要な体力である筋力および筋量を増やすため、そして持久力を高めるための効果的な運動方法とそれらの運動を実施した後に牛乳を摂取することで得られる効果について紹介させていただきます。

1.筋肉および筋力を増やすための運動方法

筋肉の量を増やすため、そして筋力を高めるための運動として最適なのは、筋力トレーニング(筋トレ)です。筋トレは、ダンベルやバーベル、専用のマシンなどの器具を使う方法、自分の体重を負荷として行う方法など、様々な種類があります。トレーニング施設に行けば器具を使った筋トレを行うことが出来ますが、自体重を負荷として行う方法であれば自宅でも行うことが出来ます。
筋トレに取り組む際は、10回程度反復できる強度で行うのが最も一般的です。たとえば、上半身を鍛えるために腕立て伏せを10回、3セット行う、といった内容です。より専門的に行う場合、筋肉の量を増やすのに最適とされる強度と筋力を高めるのに最適とされる強度には少し違いがあります(表1)。筋肉の量を増やすためには、6~12回程度を反復できる重量で行います。この重量は、自分が持ちあげられる最大重量(最大挙上重量)の70~85%程度にあたります。筋力を高めるためには、1~5回程度を反復できる重量で行います。この重量は、最大挙上重量の85~100%程度にあたります。このように、筋肉の量を増やすため、筋力を高めるため、どちらの場合も比較的高い強度が最適です。
ただし、低強度では筋肉の量が増えないというわけではありません。最大挙上重量の30~40%という低強度でも、動作をゆっくりと行って(3秒で挙げて3秒で下ろす、など)力を発揮している時間を延ばす(Tanimoto & Ishii、2006)、もしくは限界まで反復することで(Ogasawaraら、2015)、高強度で行う筋トレと同程度筋肉の量を増やす効果が期待できます。従って、高強度での筋トレを行うことが難しい場合には、低強度でゆっくりと、もしくは多くの回数をがんばってみるのも、筋肉の量を増やすためには良いかもしれません。
また、セット数に関しては、筋肉の量を増やすには3~6セット、筋力を高めるには2~6セットが最適とされています。ただし、初心者は1セットのみを行うのでも十分効果が得られるでしょう。無理のない範囲で少しずつ続けていくことが大切です。
年をとると、「自分は今から筋トレを行っても無意味なのではないか」と疑問を感じる方もいらっしゃいます。しかしながら、90歳からでも筋肉の量が増え、筋力が向上したという研究結果があります(Fiataroneら、1990)。筋トレは、何歳からはじめても遅くはありません。

2.持久力を高めるための運動方法(表2)

持久力を高めるためには、有酸素性運動を行うことが良いとされています。有酸素性運動とは、ウォーキング、ジョギング、サイクリングあるいは水泳などの比較的低い強度で長時間継続することのできる運動を指します。持久力を高めるために効果的とされる有酸素性運動の強度の目安は、心拍数(≒脈拍数)の相対値で表されることが多く、最大心拍数の60~85%に相当する心拍数が良いとされています。一般の方では低め(最大心拍数の70%以下)に、日頃運動されている方であれば高めの心拍数(最大心拍数の70%以上)で運動を継続すると良いでしょう。最大心拍数は、一般の方では(220-年齢)、日頃運動をされている方では(210-0.8×年齢)という各推定式で算出が可能です。したがって、例えば、50歳の一般の方が最大心拍数の60%で運動するのであれば、(220-50)×0.6=102拍/分が目標の心拍数となります。また、有酸素性運動の継続時間は15分以上必要と考えられており、一般的には30分程度継続されることが多いです。
他方、近年、有酸素性運動とは異なる持久力を高める方法として注目を浴びているのが、短時間(20秒程度)の全力運動と短時間(10秒程度)の休息時間を8セット程度繰り返す高強度間欠的運動を用いたトレーニング方法(High Intensity Intermittent Training:HIIT)です。田畑泉先生という方が考えられた方法なので、タバタプロトコルとも言われ、世界的にも大変有名になっています。合計時間は4分と短いですが、30分程度の有酸素性運動のトレーニングと同程度の持久力向上効果が得られることが明らかとなっています(Tabataら、1996)。全力運動を実施できる方で、運動する時間の確保が難しい方は、高強度間欠的運動を実施する方が効率よく持久力を高められるため、好ましいのかもしれません。有酸素性運動のトレーニングも高強度間欠的運動のトレーニングもご自身の持久力に合わせて週に2~5回の頻度で実施すると良いとされています。

3.牛乳は運動後に適したスポーツドリンク

(1)筋トレ後の牛乳摂取は筋肉量を増やすのに適している
筋トレ後に筋肉量を増やすために大切なことは、運動後に20g(Mooreら、2009)、あるいは若年者では体重1kgあたり0.24g、高齢者では0.4gのタンパク質を摂取することであるとされています(Mooreら、2015)。牛乳で20gのタンパク質を摂取するためには600 ml程度飲む必要があります。少々多いようにも感じますが、同じタンパク質量の豆乳を飲むよりも筋肉量を増やす効果が高く(Hartmanら、2007)、同じタンパク質量のプロテイン(タンパク質を摂取するための栄養補助食品)を摂取する場合と同等の効果が得られることが報告されています(Hamarslandら、2019)。また、牛乳の種類では、無脂肪乳よりも無調整牛乳の方がアミノ酸(タンパク質を構成するもの)の吸収率が高い(筋肉に吸収されやすい)ことが示されています(Elliotら、2006)。

(2)運動後の牛乳摂取はその後の食事量を減らす効果がある
運動の目的のひとつに、減量(体重や脂肪量を減らすこと)があります。減量する場合の考え方の基本は、運動によるエネルギー消費量が食事によるエネルギー摂取量を上回るようにすることです。しかしながら、一般的には運動をすると食欲が湧き、エネルギー摂取量が多くなるように思えます。このような場合に運動後に牛乳を飲むことで食欲を抑えられれば良いわけですが、運動後の牛乳摂取によって食事のエネルギー摂取量が少なくなったことが明らかとなっています。無脂肪乳ではあるものの、運動直後に600 ml摂取し、その1時間後にチーズのかかったボロネーゼパスタをお腹いっぱいになるまで食べてもらったところ、オレンジジュース475 mlおよび水125 ml摂取した場合と比較して、パスタのエネルギー摂取量が200 kcal程度少なくなったことが報告されています(Rumboldら、2015)。まだ、研究の数が少なく、運動後の牛乳摂取がなぜ食欲を抑えるのかについての理由もわかっていませんが、運動後の牛乳摂取は減量のための運動後の食欲を抑える良い効果があるかもしれません。

(3)有酸素性運動後の牛乳摂取はエネルギー源の回復に適している
有酸素性運動時のエネルギー源は、身体の中にある糖質と脂肪です。糖質は脂肪に比べ短時間で大きなエネルギーを作り出すことができることから効率の良いエネルギー源であると考えられています。しかしながら、身体に蓄積されている糖質のエネルギー量は、脂肪のエネルギー量に比べて極めて少ないことに加え、脂肪をエネルギー源として利用する際にも糖質が着火材のような役割を担うことから糖質が必要となります。したがって、長時間の有酸素性運動を行なった後に、もう一度長時間の有酸素性運動を行う際には、糖質を摂取し、糖質のエネルギー源を回復させる必要があります。この時に必要な糖質量は体重1kgあたり1~1.2 gとされています。さらに、近年、この糖質のエネルギー源の回復に必要な糖質量のブドウ糖を牛乳250 mlに溶かして飲むことが、ブドウ糖を250 mlの水に溶かして飲むことよりも糖質のエネルギー源の回復に有効であることが報告されました(丸山ら、2018)。このことはスポーツドリンクなどの糖質飲料よりも牛乳にブドウ糖を溶かした飲料の方が、運動後の糖質のエネルギー源の回復のための飲料として適していることを示しています。また、筋量を増やす効果同様、無脂肪乳よりも無調整牛乳の方が糖質のエネルギー源の回復効果が高いことも明らかとなっています(深澤ら、2019)。さらに、牛乳の飲めない方に朗報なのが、牛乳を原料に作ったホワイトチョコレート(近藤ら、2018)やブドウ糖で作ったアイスクリーム(東郷ら、論文投稿中)でも同じような効果が得られたことが明らかになっていることです。

(4)運動後の牛乳摂取は筋肉の損傷をやわらげる効果がある
運動の実施に負のイメージを持たれている方の中には運動後に生じる筋肉の損傷がネックになっている方も少なからずいるはずです。筋肉の損傷が起きることで運動を継続的に実施できなくなる場合もあります。具体的に運動後の筋肉の損傷とは、筋力が低下したり、血液中の筋損傷が生じた際に濃度の濃くなる指標を調べることで確かめられますが、牛乳の摂取が筋肉の損傷の程度を小さくしたことが報告されています。Cockburnら(2008)は、筋損傷が生じる運動を実施後、500 mlの牛乳を摂取することで水を飲むよりも筋損傷の程度が小さくなったことを報告しています。

おわりに

筋量、筋力および持久力が良い状態であることは、健康に深く関連しており、筋量、筋力および持久力の維持増進のために運動後に牛乳を摂取することの有効性が確認されています。筋トレ後や減量のための運動後に牛乳を摂取することは、体格および体組成の状態を良好にしてくれます。さらに、持久力を高めるための有酸素性運動後の糖質のエネルギー源の回復および運動後の筋肉の損傷を軽減するために牛乳を摂取することは、運動能力を早期に回復させ、結果的に運動の長期的な継続を可能にしてくれます(図1)。したがって、運動のお供に牛乳を準備し、運動後には牛乳を飲みましょう。

 

<参考文献>
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東郷将成,山口太一,瀧澤一騎,保科圭汰,佐藤未来,八田早那子,藤江衣織,木村宣哉,竹田保之,山口昭弘,栃原孝志,神林勲.高強度間欠的運動後におけるブドウ糖で作製したアイスクリームの摂取が男性競技者のインスリン分泌およびエネルギー基質利用に与える影響,論文投稿中

Cockburn E, Hayes PR, Stevenson E St Clair Gibson A. (2012) Acute milk-based protein–CHO supplementation attenuates exercise-induced muscle damage. Appl Physiol Nutr Metab. 33:775-783.

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