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土壌・草地栄養・飼料

飼料作物の生産と調製―理論と実際― ≪第2回≫自給粗飼料生産

掲載日:2019.06.25

酪農学園大学
副学長
 野 英二

はじめに

自給飼料の代表格である牧草はサイレージや乾草、またトウモロコシはサイレージに調製利用されます。それらは調製時にロスが生じ、栄養価は収穫時のものよりも決して高くはなりません。良質の粗飼料を調製するためには、良質原料(刈取り時)の確保が最大の必須条件となります。

酪農学園大学では、乳牛用自給粗飼料として牧草とトウモロコシを栽培し、主にサイレージに調製しています。収量は圃場によって大きな差が認められ、その主な原因としては、牧草地への雑草侵入による植生の変化や、土壌の物理的特性に起因する排水性の悪さが上げられます。

1.牧草の収量と栄養価に及ぼす影響

飼料作物の収量は気象や土壌条件(物理性・化学性)、施肥管理等多くの要因に影響されます。草地は経年化に伴う土壌の緻密ちみつ化(硬化)、植生の悪化で、生草収量が減少します。植生の悪化は、牧草密度の低下や裸地化の結果、雑草が侵入することが大きな原因です。本学においても、近年多くの草地に雑草の侵入が目立ってきました。雑草の多い草地の収量は低く、栄養価の低下を引き起こすものと推察されます。

牧草地で一般的に認められている代表的な雑草として、エゾノギシギシ(タデ科)、シバムギ(イネ科)、セイヨウタンポポ(キク科)、ヒメオドリコソウ(シソ科)があります。セイヨウタンポポは単為生殖により結実するため繁殖力が強く、種子は広く飛散しやすく爆発的な広がりを示し、きわめて深刻な状況にあります(写真1)。ヒメオドリコソウは道東には少ないですが、近年目立ってきた雑草です(写真2)。

また全府県で発生が多い畑地雑草として知られるイチビ(アオイ科)が一部のトウモロコシ圃場で観察され、その蔓延が懸念されます。イチビはトウモロコシの収量、サイレージの品質、牛乳の風味に影響する恐れがあります。一度圃場に侵入すると、その被害が長期化する強害雑草です。これらの雑草は北海道の外来種リスト(北海道ブルーリスト2010)に掲載されているものであり、農業分野への影響は勿論のこと、北海道の生態系などへ影響を及ぼしている外来種です。

2.雑草対策面からの草地造成(更新)

草地の経年化や雑草の侵入による植生の変化などで収量・栄養価が低下した場合、草地更新が必要とされます。本学では牧草とトウモロコシの輪作栽培体系をとっています。トウモロコシは同一圃場で3~4年間栽培し、その後牧草の新播を行っています。トウモロコシ栽培には土壌処理剤も利用していることから、トウモロコシとの輪作は雑草予防の有効な一策になっています。しかし、旧来の牧草の播種は、春あるいは夏の整地直後に実施していましたが、牧草と雑草が同時に生育するため、その後の圃場管理が大変でした。現在はえん麦と除草剤処理同日播種法による新播草地造成を行っています。

えん麦は緑肥と雑草の生育抑制効果を目的として、えん麦を緑肥としてき込んだ後、牧草の播種床を造成します。約30~40日後に雑草が発芽し、生えそろったところで除草剤を散布し、同日に播種する方法で成果を上げています(写真3)。

3.排水不良圃場における飼料作物栽培の影響

トウモロコシは牧草に比べ、気象条件、圃場環境(土壌の特性)に大きく影響され、年間、圃場間の収量の変動が大きくなります。本学の土壌は保水性、排水性に劣る粘土が主体です。播種前の耕起、整地作業後の土壌は十分に細砕されず、大小の土塊が目立つ圃場もあり、種子の発芽低下、その後の生育が抑制される原因になります。また、排水不良圃場では圃場表面水の停滞も長期にわたることもあり、播種や収穫作業に多大な影響を及ぼします。

図1に2011年度の圃場別トウモロコシ収量(DMkg/10a)を示しました。圃場間における差が大きく、壊滅的な圃場も認められました。この原因は、播種から収穫まで、土壌が湿った状態であったことです(写真4)。牧草地における排水不良も、生草収量の低下の原因や刈取などの管理作業の妨げとなります。湿潤な圃場はトラクターなどによるダメージも受けやすく、雑草の侵入を助長する要因となります(写真5)。また刈取り草に土が混入し、サイレージや乾草の品質を低下させることもあります。

排水不良の圃場は、土壌改良や暗渠あんきょ明渠めいきょ排水の整備などの抜本的な対策を要しますが、圃場表面水が停滞しないような管理作業に努めなければなりません。

4. 良質飼料生産のために

飼料作物の作付け作業は①耕起、②砕土・均平、③播種・鎮圧ですが、均平な土壌表面にする作業が重要です。特に草地では重要な作業になります。凸凹のある圃場は、播種、収穫・調製作業が効率的に行われず、また、作業機のトラブル原因になります。草地ではモアーやテッダー、レーキなどの作業機で牧草が剥ぎ取られ、雑草侵入や収穫物への土混入による低栄養価の原因にもなります。一般的なハローによる砕土作業は、均平作業を兼ねるので、縦横がけ・ジグザグがけ・対角線がけなどの作業機の運行を調整する必要があります(図2)。

良質自給飼料の生産は、飼料作物栽培圃場つくり(播種前の耕起作業)から始まることを認識しておくことが肝要です。


<参考文献>

北海道環境生活部環境局(2010)http://bluelist.ies.hro.or.jp/
木谷収編(2006)農業機械,実教出版,p101
小阪進一・野 英二(2001)酪農学園大学紀要,26:45-49.
小槙陽介(2010)牧草と園芸,58(2):6-10.

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