土壌・草地

草地の土づくり

掲載日:2018.04.27

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 三枝 俊哉

はじめに

酪農ジャーナルがWeb版で新装開店することになり、このコーナーを担当することになりました。調子がよければ半年おきくらいに更新しますので、時々ご覧頂ければ幸いです。

早速ですが、日本の草地の多くは寒地型牧草を播種した人工草地で、一旦草地を作り上げたら数年から十数年、施肥と利用が繰り返されます。草地を作ることを「造成」、作った草地で牧草を生産し続けることを「維持管理」、生産性が落ちた草地を作り直すことを「更新」といいます。草地の更新にはお金がかかりますから、生産性の高い草地の状態をできるだけ長期間維持することが経営的にも有利です。そこで、「どのように維持したら、良好な草地を長く維持できるか?」ここにはそんな記事を掲載していきます。

さて、地域においては10年ほど前から雑草が増えて生産性が低く、更新してもすぐに元に戻るという草地が増え、まずは草地をきちんと更新する技術の普及が重要だということになりました。本稿でも、草地を正しく作る話から始めます。

1.どうして更新してもすぐに草地が荒れるのか?

図1は、北海道東部の採草地で1979年と2009年に実施された二つの実態調査の結果です(道総研根釧農試,2012)。79年の実態調査結果(農用地開発事業推進協議会・根釧農試,1982)では、更新後の年数経過に伴って地下茎型イネ科草の混生割合(図中の△)が増加しましたが、更新後10年を経過した草地でも優占草種は依然としてチモシー(図中の○)でした。しかし、30年後の09年調査時におけるチモシー混生割合(図中の●)は、更新5年目をすぎると低下し、地下茎型イネ科草(図中の▲)の優占化が進行しました。両調査結果の違いは、30年の間に地下茎型イネ科草の種類が変化したためと考えられています(道総研根釧農試,2012)。

写真1は代表的な寒地型の地下茎型イネ科草です。79年調査時、地下茎型イネ科草の主体は、侵入性の比較的緩やかなケンタッキーブルーグラスとレッドトップでした。いずれも草地開発の初期に低コスト放牧草地の適草種として導入されました(北海道立根釧農試,1965)。その後、耐湿性の高さから排水不良な草地に限定的に導入されたリードカナリーグラスや、そもそも導入されていないシバムギが遅れて侵入しました。リードカナリーグラスは出穂前後の地上部生育量が極めて旺盛で、ほかの草種を圧倒します。また、シバムギは地下茎拡大能力が著しく高く(本江・岩橋,1982)。いずれも旺盛な競争力で30年の間に被度を拡大し、09年の調査結果に至ったと考えられます。

これらの地下茎型イネ科草は生態的には極めて安定なので、条件不利地などの省力的な草地管理には有用です(八木ら,2007、井内,2008)。しかし、集約的な草地管理に適したチモシーやペレニアルライグラスなどと比べると、いずれも栄養価(八木ら,2007、井内,2008)や施肥反応(松中ら,1984)に劣るので、高い泌乳能力を有する搾乳牛用の粗飼料を生産する草地では排除したい草種です。地下茎型イネ科草は、地下茎と根の密集したルートマットを草地表層に厚く形成します。草地更新時の耕起は、作土の反転によってルートマットを埋設することで地下茎型イネ科草の抑圧を狙っています。しかし、実際には反転不十分な部分が地表近くに残り、砕土作業で砕かれたルートマットが拡散し、地下茎型イネ科草の新たな生育拠点となります。さらに、シバムギは地下茎の伸長が極めて旺盛で、地下30cmに反転・埋設されても2~3年で復活します(図2、竹田,1988)。

現在、このように地下茎型イネ科草の主体となっているリードカナリーグラスやシバムギを草地更新時の反転耕起だけで排除することは極めて困難で、後述する除草剤などを活用した積極的な抑制対策が不可欠となりつつあります。

一方、埋土種子に由来する雑草が草地更新時の播種床から一斉かつ大量に出芽し(写真2)、播種牧草の出芽定着が抑制される失敗事例が増えています。埋土種子とは、発芽能力を有したまま土中で休眠して生き延びる種子のことです。特に大きな問題となるのはギシギシ類で、その埋土種子は草地に裸地が生じると光を感じて発芽します(清水・田島,1974)。定着した個体は地上部で毎年大量に種子を生産し、これらの種子が草地更新時の耕起・反転作業によって土中に埋土種子として蓄積します(川鍋ら,1997)。こうして、ギシギシ類は草地更新のたびに埋土種子を増やしてきました(図3、松中・三枝,2016)。ある日、突然出現した写真2のような光景は、長い年月をかけた埋土種子蓄積の結果です。

以上のように、近年の草地には開墾後数十年の歳月と数度の草地更新を経た結果、侵入性の強い地下茎型イネ科草の密度が増え、雑草埋土種子の蓄積が進んでいます。このような草地を更新する場合、以下に示す雑草対策を徹底しない限り、チモシー基幹草地を確立することはできません。これは、雑草密度の少なかった開墾当時には遭遇することのなかった新たな事態です。今日必要とされる草地更新時の徹底した雑草対策は、先代、先々代の経営者には必要とされなかった、現代の草地管理に特徴的な対策なのです。

2.どうしたら草地更新時の雑草を抑えられるのか?

(1)地下茎型イネ科草の抑制対策

草地更新前の地上部に優占する地下茎型イネ科草の抑制対策としては、グリホサート系除草剤の耕起前処理、すなわち既存草種の茎葉処理による全面枯殺が最も有効です。本除草剤の効果は、従来から処理時期によって異なります。1番草収穫後の夏播種を想定する場合、牧草の晩播限界を8月中下旬とすると、7月または8月の除草剤処理が有利です。また、翌年播種の場合の処理効果は7月、8月、9月と遅いほど高くなります(早川・近藤,1987)。秋に処理効果の高い理由は、地下茎が秋にかけてよく伸長すること(本江・岩橋,1982)、また植物体に取り込まれた除草剤が、秋には光合成産物の転流とともに地下茎に移行しやすいこと(早川・近藤,1987)などが指摘されています。さらに、リードカナリーグラスやシバムギなど防除の難しい草種に対しては、草丈40~50cmと従来よりも長く伸ばし、葉面積を十分に確保した状態での除草剤処理が有効です(表1、道総研畜試ほか,2016)。

草地更新時にほかの飼料作物を作付けすることも、地下茎型イネ科草の対策として推奨されます(道総研畜試他,2016)。例えば、北海道における飼料用トウモロコシは近年、極早生品種の開発や露地栽培法の確立により(濃沼ら,2010)、栽培面積が拡大しています。この飼料用トウモロコシを複数年、計画的に栽培することにより、地下茎型イネ科草の抑制と飼料自給率の向上の双方が期待できます。

(2)播種床造成後に発生する実生の雑草対策

播種床造成後に発生する雑草の対策として、従来から推奨されている掃除刈り(草地生産技術の確立・向上プロジェクト,2005)は、1年生草本の抑制に有効であり、ギシギシ類のような多年生草本は抑制できません。多年生草本を含む実生の雑草全般を抑制する方法として、グリホサート系除草剤の播種床処理が開発されています(高木ら,1994)。この方法では播種床造成後、しばらく放置して主な雑草が発生させ、それらにグリホサート系除草剤を処理し、10日以内に牧草を播種します。すると、地上部の雑草枯死と入れ替わりに播種牧草が出芽し、安定的に定着します(写真3)。グリホサート系除草剤は土壌に接触すると失活する-という特徴を巧みに利用した方法です。雑草発生を待つ播種床の放置期間は30~40日間が目安となりますが、実際には気象条件や土壌条件によるので一様ではありません。播種床処理の頃合いを見極めるには、圃場ごとに発生の予想される雑草の種類を事前に把握しておくことが重要です。

3.まとめ-十分な投資で草地の維持年限を確保-

地下茎型イネ科草の優占と埋土種子の蓄積の両方が進んでいる圃場には、グリホサート系除草剤の耕起前処理と播種床処理を組み合わせが有効です(道総研畜試ほか,2016)。もちろんこれには労力と経費が掛かります。しかし、埋土種子が蓄積した地下茎型イネ科草優占草地で雑草対策を講じることなく草地更新すれば、播種当年のうちにギシギシ類などに優占されるか、速やかに更新前と同様の地下茎型イネ科草に優占されます。生産現場で「草地を更新してもすぐに元に戻る」と嘆かれる現象の多くは、草地更新時に行うべき雑草対策の不備に起因します(道総研根釧農試,2012)。草地更新時には施工当年の経済性に捉われることなく、十分な雑草対策を施してほしいと思います。その投資が、更新後の維持年限を確保し、最終的に草地管理のコストを低減します。

 

<引用文献>

道総研畜産試験場・根釧農業試験場・上川農業試験場天北支場(2016)地下茎型イネ科草種に対応したチモシー採草地の植生改善技術と地域における植生改善推進方法,平成28年普及奨励ならびに指導参考事項,p38-40,北海道農政部,札幌.

道総研根釧農業試験場(2012)根釧地域の草地更新時における植生悪化要因の実態,平成24年普及奨励ならびに指導参考事項,p135-137,北海道農政部,札幌.

早川嘉彦・近藤熙(1987)地下茎イネ科草種優占草地の簡易更新に関する研究,2.草地更新時の前植生抑圧のためのグリホサート除草剤の散布時期と散布量,日本草地学会誌,33,271-275.

北海道立根釧農業試験場(1965)低コスト放牧地の造成維持管理法,農業技術普及資料,第8巻,第5号,p255-260,北海道農務部農業改良課,札幌.

本江昭夫・岩橋信也(1982)多年生イネ科草シバムギ,ナガハグサ,コヌカグサにおける地下茎の拡散能力,雑草研究,27,98-102.

井内浩幸(2008)天北地域におけるリードカナリーグラスの刈取時期と飼料成分, 北農,75,14-19.

川鍋祐夫・押田敏雄・中村英代・向山新一・福安嗣昭(1997)エゾノギシギシの頻度の異なる草地の雑草埋土種子集団の比較,日本草地学会誌,43,237-242.

濃沼圭一・三木一嘉・榎宏征・佐藤尚・齋藤修平・佐藤尚親・山川政明・牧野司・林拓・出口健三郎・藤井弘毅(2010)寒地栽培限界地帯向き飼料用トウモロコシ品種「ぱぴりか」「たちぴりか」の育成および狭畦交互条播栽培等安定生産技術の開発,日本草地学会誌,56(別),2-5.

松中照夫・小関純一・松代平治・赤城仰哉・西陰研治(1984)収量規制要因としての草種構成の重要性,日本草地学会誌,30,59-64.

松中照夫・三枝俊哉(2016)草地学の基礎―維持管理の理論と実際―,p77-79,農山漁村文化協会,東京.

農用地開発事業推進協議会・根釧農業試験場(1982)根室地方の採草地における牧草生産力の実態とその規制要因の解明ならびにそれに基づく技術的改善指針,p1-84,農用地開発事業推進協議会.

龍前直紀・北村 亨・谷津英樹・壱岐修一・篠田英史・三輪哲哉・高山光男(2010)草地管理技術の改善によるグラスサイレージ品質の向上に関する調査研究と普及推進,北海道草地研究会報,44,6-11.

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草地生産技術の確立・向上プロジェクト(2005)草地の簡易更新マニュアル,p11,北海道農政部,札幌.

高木正季・猪俣朝香・武井昌夫(1994)草地造成における播種時雑草処理の効果,北海道草地研究会報,28,75.

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八木隆徳・目黒良平・福田栄紀(2007)東北地方におけるシバムギ(Agropyron repens(L.)Beauv.)優占草地の牧草生産性,永続性および飼料成分,東北農業研究センター研究報告,108,63-71.

図1.更新後経過年数の異なる採草地における草種構成の実態/写真1.代表的な寒地型の地下茎型イネ科草

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図2.更新方法の違いとシバムギの復活

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写真2.ギシギシ類、タデ類、アブラナ科、ヒエ類などの埋土種子が一斉に出芽した播種床

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図3.ギシギシの埋土種子の増加過程(概念図)

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表1.グリホサート系除草剤処理時草丈とその後の再生

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写真3.グリホサート系除草剤の播種床処理

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