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土壌・草地

草地の土づくりー施肥基準とは何か?ー

掲載日:2019.11.27

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 三枝 俊哉

はじめに

これまでこのサイトでは、草地の栽培管理や施肥管理に関する基本的な考え方についてご紹介してきました。今回からは、その実際についてご説明します。

各圃場に必要な施肥量を実際に計算するときには、施肥基準(北海道では施肥標準といいます)や土壌診断基準という指標を使います。施肥基準とは、各都道府県が管内の農家に推奨する施肥量の目安です。農林水産省のWebサイトで、全国の施肥基準を閲覧することができます。

農業の盛んな北海道では、多くの作物に対応した施肥量の目安が「北海道施肥標準」として、また、各圃場の養分状態に応じた施肥量の計算方法が「土壌診断に基づく施肥対応」として整備されてきました。また、圃場に投入される堆肥やスラリーなどの有機物の肥料効果についても、精密に評価できる仕組みが構築されています。これらは「北海道施肥ガイド」として集約され、新たに開発された施肥技術を盛り込みつつ、数年ごとに改定されています。最新版は「北海道施肥ガイド2015」で、現在「北海道施肥ガイド2020」への改訂が予定されています。

本稿では、北海道の寒地型草地に対する施肥計画の基本となる「北海道施肥標準」とはどのようなものであるかをご説明します。

1.採草地の施肥標準

北海道における採草地の標準的な年間施肥量は、地帯と土壌と草種構成の組み合わせによって決まります。牧草の生育は気象や土壌の条件に強く影響されるので、北海道施肥標準(北海道農政部2015)では道内を気象条件に応じて18地帯21区分に分類します。採草地の場合、これらを道央・道南、道北および道東の3地帯にまとめています(図1)。土壌は低地土、泥炭土、火山性土および台地土の四つに区分します。草種構成は、基幹草種の種類(チモシー、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、アルファルファ)とマメ科牧草の混生割合によって区分します。それぞれに基準収量といわれる収量水準が設定されており、それに要する年間施肥量が北海道施肥標準です。この施肥標準量は、標準的な土壌養分含量の草地で、堆肥等の有機物が施用されない条件のものです。標準的な土壌養分含量とは、土壌の分析値が土壌診断基準値の範囲内にある状態をいいます。

表1は道東地帯の火山性土に立地したチモシーを基幹とする採草地の施肥標準量です。このような表が上記の地帯、土壌別に設定されています。詳細は北海道施肥ガイド2015(北海道農政部)を参照下さい。チモシー草地では、マメ科牧草混生割合によって、年間窒素施肥量を4段階に分けて設定しています(表1、図2)。これは、木曽・菊地(1988)によって道東7地域27圃場で実施された窒素用量試験の平均値(図3)に基づくものです。基準収量とは、土地条件の異なる各地帯、各土壌の目標となり得る収量ですが、同時に、チモシーやマメ科牧草など、主要牧草の混生割合を適正に維持するために好適な収量水準でもあります。たとえば、チモシーとマメ科牧草の混播草地で施肥量が不足すると、マメ科牧草の減少などで草種構成が悪化します(松本ら1997;大村ら1985)。反対に、マメ科牧草の多いチモシー草地に必要以上の窒素が施肥されると、収量は基準収量を超えますが、マメ科牧草がチモシーに抑圧されて減少するので、やはり草種構成が悪化します(図4、木曽・菊地1988)。離農跡地を吸収して急激に規模拡大が進んだ酪農場など、草地面積に余裕がある経営では、1番草収穫後の施肥を省略したり、面積当たりの施肥量を減らして、大面積の低収草地で粗飼料を生産したりする場合がみられます。このような場合には、チモシーやマメ科牧草の多い草種構成の良好な草地を小面積維持し、そこで十分な収量を確保するとともに、地下茎型イネ科草の多くなった草地で思い切った省施肥を行うなど、メリハリの効いた施肥管理が推奨されます。
同じように、基幹草種がオーチャードグラスの場合マメ科率区分は3区分、ペレニアルライグラスの場合2区分されて、それぞれに施肥標準量が定められています。また、基幹草種がアルファルファの場合には、混播相手のイネ科牧草がチモシーかオーチャードグラスかで、年間窒素施肥量が異なります。チモシーは生育旺盛なアルファルファに抑圧されやすいので、窒素施肥量が多めに設定されています(北海道農政部2015)。

2.放牧草地の施肥標準

北海道における冬季の気象条件は、地域によって大きく異なります。冬季多雪で越冬条件の比較的良好な道央・道南、道北地帯では、短草利用の集約放牧に適したペレニアルライグラスの安定的な栽培が可能です。しかし、冬季極寒で土壌凍結の顕著な道東地帯では、ペレニアルライグラスが安定的に越冬できず、寒さに強いチモシーやメドウフェスクが放牧利用されます。このため、それぞれの基幹草種の生育特性に応じた放牧利用方法が設定されています。特にチモシーは放牧利用に弱いので、①熟期の遅い品種を選ぶこと②低い草高まで食い込ませる強い放牧を避けること―などの注意が必要です(松中・三枝2016)。

これに対し、放牧草地への年間施肥量は、基幹草種や放牧方法にかかわらず、共通の値が設定されています(北海道農政部2015)。これは、放牧草地で牛が草を食べ、ふん尿を排泄することで循環する養分を考慮した結果です(図5;三枝ら2014)。放牧牛の牧草採食によって摂取された養分の一部は家畜の維持・生産に使われ、排泄された養分の一部は形態変化や損失によって牧草に利用されにくくなります。このため、放牧を続けると肥料として有効な養分(肥料換算養分)が草地から減少します。これを施肥で補うことによって、放牧草地の生産性を維持することができます.様々な被食量の放牧草地で肥料換算養分の減少量を調査した結果、肥料換算養分の減少量は、いずれの調査地点も同じ値になるとは言えませんでした。しかし、「同一地域で草種間差があるか?」「同一草種で地域間差があるか?」と比較すると、統計的な差は認められませんでした(表2;三枝ら2014)。検討の結果、施肥として必要な量(=肥料換算養分の減少量)は、地域、草種、土壌の違いによらず、被食量(牛がその牧区で年間に食べた面積当たりの草の量)によって決まっていることがわかりました(図6;三枝ら2014)。

放牧草地では地帯、土壌、基幹草種が同じでも、放牧密度、放牧方法、放牧時間、併給飼料給与量などの放牧飼養法が変わると、面積当たりの被食量が変化するため、必要な施肥量が変わってしまいます。採草地のように、地帯、土壌、基幹草種が決まったら、標準的な施肥量が決まるという構成をとることができません。そこで、乳牛放牧草地の標準施肥量は、図6の値を平均値と標準偏差で表し、表3のように代表値±幅の形式で示されています(北海道農政部2015)。これまで放牧経験のない酪農場で放牧飼養を導入する場合には、初年目に代表値の施肥量で試行し、草量の過不足、土壌養分の増減等を観察します。そして次年度から±幅で示された範囲を目安に調整するという試行錯誤をおこない、安定した時の値をその牧区の標準施肥量とするという仕組みになっています。

まとめ

以上、本稿では、北海道施肥標準の考え方と構成について解説しました。前述のように、北海道施肥標準は土壌の肥沃度が標準的な圃場に必要な年間施肥量です。しかし、草地の施肥管理・利用管理は圃場ごとに異なるので、土壌養分の豊否も圃場によって異なります。このため、定期的に土壌診断をおこなって、各圃場の肥沃度を評価し、施肥量の補正をおこなうことが重要です。次回は、土壌診断に基づく施肥対応について解説します。

<引用文献>
北海道農政部(2015)北海道施肥ガイド2015,197-229,北海道農政部,札幌.
木曽誠二・菊地晃二(1988)チモシー(Phleum pratense L.)を基幹とする採草地におけるマメ科草混生割合に基づいた窒素施肥量.日本草地学会誌34:169-177.
松中照夫・三枝俊哉(2016)草地学の基礎-維持管理の理論と実際-,p49-74,120-129,農山漁村文化協会,東京.
松本武彦・木曽誠二・松中照夫・能代昌雄・寳示戸雅之(1997)チモシーを基幹とする採草地に対する施肥改善効果.日本土壌肥料学雑誌68:448-452.
大村邦男・木曽誠二・赤城仰哉(1985)火山灰草地における施肥管理が草地の経年変化に及ぼす影響.北海道立農試集報52:65-76.
三枝俊哉・西道由紀子・大塚省吾・須藤賢司(2014)北海道の乳牛集約放牧草地における養分循環に基づく施肥適量.日本草地学会誌60:10-19.

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