特集

特集

Feature
管理作業

胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―

掲載日:2019.11.15

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 髙橋 俊彦

はじめに

乳牛の分娩頭数は平成31年2月の農水省畜産統計(表1)によると、全国では69万1,100頭、北海道では40万7,000頭でした。肉牛は全国で53万3,000頭、北海道7万6,100頭です。しかし、表2に示したように平成29年度北海道NOSAIの統計から、子牛の死亡・廃用の最上位である新生子異常は乳牛3万4,725頭(8.5%)、肉牛2,666頭(3.5%)と非常に多くの牛が新生子の時期までに牛群から消失しています。

現場においては、2004年の子牛共済導入から15年経過しますが、子牛の死亡・廃用の実態が明らかになってきました。酪農家の経営規模が拡大してきている状況において、特に「大型酪農場での胎子死の増加を問題視している」というのが現場の獣医師の率直な感想でしょう。

将来の酪農場の牛群を背負って行かなくてはいけない子牛たちが、早い時期に牛群から去るのは酪農家にとっても、酪農場にとっても、そして地域にとっても大きなマイナス要因です。

図1に2009年度の釧路管内の乳用子牛死廃事故発生状況を示しました。最も発生が多い胎子死は、特に冬場に注意しなければいけない事故です。

そこで、今回は胎子死の発生状況、要因と対策、そして特に冬場に注意しなければならない点―などについて解説します。

1.胎児死の発生状況

図1に示したように、釧路管内の乳用子牛の死廃事故の72%は胎子死などの出生時の事故が占めています。すなわち多くの子牛は出生時(分娩に立ち会っていない場合は、生まれてすぐに死亡したものも含まれる)に、既に死亡していたことが分かりました。いろいろな状況下で出生する子牛たちは、さまざまな理由で生存できない状況にあったのです。しかし、出産に立ち会い、介助や補助をすることで“救える命”も多く見受けられます。

茅先らは、年間の平均気温と胎子死率の関係を示しています(図2)。すなわち、気温が氷点下を示す冬季に胎子死率が有意に増加します。これは「冬季は寒冷ストレスにより、自発呼吸のあった新生子の死亡が増えてしまうことが原因と考えられた」と報告しています。また、図3においても「搾乳牛舎の温暖な牛舎内環境で分娩する事が、胎子死率を大きく低下させる」ことを報告しています。冬期間の分娩には、分娩管理や分娩環境が重要であることを示しています。すなわち、特に冬期間は何とか無事に生まれた子牛が、寒さのために出生後死亡するということであり、酪農家の分娩監視や介助、そして分娩する環境によって十分に救うことができるという状況を示しています。

また、図4は釧路地区NOSAIのSセンター内の3カ所の診療所で、2010年度の胎子の死亡について調査したものです。総出生頭数が12,506頭(雌 6,293頭=50.3%、雄 6, 213頭=49.7%)とほぼ同数の出生でした。これは多くの研究報告と同じ結果でした。そのうち、出生時の胎子死亡は雌518頭(8.23%)、雄432頭(6.95%)と、出生時の死亡は雄よりも雌の方が統計学的にも有意に多いことが判明しました(雌:雄比率は54.5:45.5)。

双子の死亡率は、片方死亡率が12.3%、両方死亡率が13.7%、全体で26%であり、双子の場合の死亡率が高いことが判明しました。雌の死亡が多いことは、酪農場において次世代を担う子牛が減少することから、非常に大きな問題を含んでいることになります。

2.胎子死の要因と対策

(1)難産
難産の原因として、①産道の狭窄きょうさく②胎子過大③胎子失位④陣痛微弱―などがあります。これらによって胎子の死亡が多くなります。また人為的要因として、①乳牛の改良による大型化②分娩施設などの改善の遅れ③通年舎飼いによる運動不足④多頭飼養によるスペース減少と管理不十分―などがありますが、早すぎる助産による悪影響も現場では非常に多く見受けられます。
基本的な対策として、難産が起きにくいような、施設や乳牛の改良が必要です。また、飼養者による身勝手な早過ぎる助産は最も防がなくてはなりません。早過ぎる助産によって、母牛がまだ十分に分娩する状況に入ってない状態でお産をさせることは、子牛はもとより、母牛の分娩後異常を誘発する危険性が高くなります。早過ぎず、遅過ぎない助産が大事です。常にお産の監視をすることによって早くに異常を見つけ、早めに獣医師の往診を依頼する事が大切です。双子分娩の死亡リスクが高いため、双子の難産も注意しなければいけない点です。

(2)分娩房の整備
分娩房は個別で十分な広さを持ち、硬くなく、滑りにくい床で(出来れば土間が良い)、繋留されない状態が最適です。温度や湿度の管理も重要で、夏は暑さ対策、冬は寒さ対策も重要な条件です。

(3)分娩監視
子牛の出生時になるべく飼養者が立ち会うことが必要です。これによって早くに異常を発見し、対処することができます。
分娩時期の予測には、分娩前に母牛の体温を測定する方法があり、効果を上げています。牛は分娩の1週間から10日前くらいに体温が上昇します(39.0℃くらい)。それが分娩1日前くらいになると平常に戻り、ここから約24時間で分娩します。中には体温が高いままや低いまま分娩する個体も見られますが、多くの個体で24時間以内に分娩するので参考にしてほしいと思います。また、分娩監視装置を導入する事で分娩時の事故が大幅に減少します。

(4)冬期間
胎子死の発生状況でも説明しましたが、冬期間は胎子死が多くなっています。特に出生後に自発呼吸があった(出生時は生きていた)のに死亡してしまう事例は、寒冷によって体温維持が不能なために起きるもので、これは監視や立ち合いが出来れば防げる事故であり、防がなければいけません。
冬期間で特に注意すべき点は、以下のものが挙げられます。
1)分娩する場所の適正な温度管理(寒過ぎない)
2)分娩場所の敷料を増加する
3)分娩監視の強化(冬場は特に大事である)
4)出生した子牛を早急に乾かす(低温から早く逃れるため)
5)4)と並行して体表のマッサージ
6)早急に初乳を給与する(低温状況はエネルギーを多く消費する)
7)時には暖房器具を利用する(ジェットヒーターなど)
8)子牛飼養場所の温度管理(赤外線ヒーターなど)
9)子牛飼育場所の敷料を多めに使用する

まとめ

胎子が死亡する原因はさまざまです。しかし、ここまで述べてきたように助けられる事故も多く見受けられます。厳しい酪農情勢だからこそ、少しでも牛群に残る子牛を増やさなくてはなりません。経営や労力の省力化は非常に大切ですが、手抜きは全く駄目です。“子牛をなるべく死亡させない”―この単純で身近に出来ることが、最も重要な経営戦略ではないでしょうか。分娩時事故が5%を超えたら“異常”です。皆さんも自分の酪農場の子牛の死亡・廃用状況を検証して、対策をすることが重要です。どこかに原因はあるのですから…。

 

<参考文献>
日本家畜感染症研究会(2009)子牛の科学.
農林水産省(2019)『畜産統計』.
石井三都夫(2009)第33回大動物臨床研究会誌.
茅先秀司(2010)産業動物臨床医学雑誌1-3.

胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―
胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―
胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―
胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―
胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―
胎子死を防ぐための飼養管理技術―特に冬場は注意が必要―

※ ダウンロードにはアンケートへのご回答が必要です。