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繁殖・育種

乳牛の繁殖成績と分娩前後の栄養状態との関係(2)

掲載日:2020.01.24

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 堂地 修

本特集は、2019年10月に北海道湧別町で開催した酪農公開講座『酪農を未来へつなぐ』の講演内容をまとめたものです。

6.同一牛群における分娩前後のBCS推移と繁殖成績に関する長期観察事例

著者らは、酪農学園のロボット搾乳牛舎で分娩後の初回排卵の時期によって牛をグループ分けし、分娩前後のBCS推移と繁殖成績との関係を3回にわたって調べています。本調査では分娩後の排卵日を分娩後21日以内、22~42日、43日以上の3グループに分けて、乳量、分娩前後のBCS推移、初回発情発現日、人工授精開始日、空胎日数、受胎に要した人工授精回数などの繁殖成績を比較してBCS推移との関係を検討しました。乳牛では、初回排卵が分娩後3週間以内にみられる牛の空胎日数はそれ以上の日数を要する牛に比べて短いことが知られています(Kawashimaら、2006)。このことは初回排卵が早いと受胎も早いことを示しています。

著者らの最初の調査(1回目)では、初回排卵が分娩後21日以内の牛は、初回排卵が遅かった牛に比べて初回発情日、初回人工授精日、空胎日数が短く、日乳量は有意に少ない結果となりました。(図7、表1)。初回排卵が遅れると初回人工授精日も遅くなり、乳量が多いほどその傾向は明瞭でした。この牛群では、分娩後BCSが2.75付近に回復すると明瞭な発情が発現し、人工授精ができるようになり受胎するようなります(図中ではBCS2.75~3.0に網掛け)。調査1回目における分娩前後のBCS推移をみると、初回排卵が21日以内にみられた牛では分娩後のBCS低下が少なく分娩後70日頃には回復しています(図8)。しかし、他の2グループは分娩後のBCS低下割合が大きく、BCSの回復も遅れていました。受胎した分娩後の日数(空胎日数)をみるとBCSが2.75付近に回復した時期と一致しているようにみえます。この結果は、乳量の多い牛は分娩後のBCSの低下割合が大きく、初回排卵が遅れることを示しています。また、初回排卵43日以上のグループの乳量は22~42日のグループとは同等であったにもかかわらず空胎日数が約1発情周期長くなりました。乳量が同等であっても分娩後の繁殖機能回復には個体差があり、繁殖能力の差が存在する可能性が考えられます。

次に同じ牛舎で数年後に最初の調査と同様に分娩後の排卵日によって3グループに分けて比較したところ(2回目)、初回発情日、初回人工授精日、空胎日数のいずれにも大きな差はみられませんでした(図9、表2)。乳量は3グループともほとんど同じ量で、1回目の調査に比べて乳量は増加し、繁殖成績は低下しました。初回排卵の時期の違いによる空胎日数に差がみられなくなり、初回排卵が早くても受胎の遅れが認められました。分娩前後のBCS推移をみると、分娩前のBCSは2.75~3.0で、全てのグループが分娩後70日頃に最低値(2.5付近)を示し、その後150日頃までBCSは回復しませんでしたが150日以降になってようやく回復し始めています(図10)。2回目の調査ではBCS2.75以上に回復した時期と平均空胎日数がいずれも150~160日で一致しています。調査1の結果と異なる点は乳量が増えたことで、それ以外の飼養管理上の変化はなかったことから、BCS回復の大きな遅れから推察すると乳量に見合う栄養摂取できなかったことが受胎の大きな遅れの原因になったと考えられます。また、初回排卵が早く初回発情も早くなってもBCS低下が大きく、低いBCS状態が続けば空胎日数が長くなるとことを示しています。

さらに数年後に同じように3回目の調査を行ったところ、乳量は2回目の調査とほとんど差がありませんでした(表3)。しかし、初回排卵日が21日以内にみられた牛の空胎日数は初回排卵日22~42日、43日以上の牛より長く平均180日を越えました。初回排卵日が長くなるにしたがって初回発情も長くなりました(図11)。逆に初回人工授精日は初回排卵日43日以上が最も早く、次に22~42日で、21日以内が最も長くなりました(平均120日)。受胎に要した平均人工授精回数は初回排卵日が長くなるにしたがって増えました。BCSの推移をみると分娩後50~70日頃まで低下したのち徐々に上昇していくものの、初回排卵日43日以上の牛は分娩後190日頃にようやくBCS2.75に回復しています。しかし、初回排卵22~42日の牛は分娩後230日頃、初回排卵日21日以内の牛は分娩後250日頃になってもBCS2.75に到達していませんでした。この3回目の調査では、分娩後のBCSは1および2回目の調査に比べて低い値で長く推移していました。このことは、分娩後長期にわたって栄養的に回復していないことを示しています。そのため、初回排卵日、初回発情日、初回人工授精実施日は1および2回目の調査と同様の値でしたが、空胎日数は長くなっていました。

一般に、分娩後の初回排卵が早ければ初回発情日、初回人工授精実施日も早く、空胎日数は短くなります。その場合、初回排卵が分娩後21日以内の牛は、BCSが分娩後50から70日頃まで低下しその後回復しています。しかもBCS低下の程度は0.25ポイント以内に収まっています。ここに紹介した1、2および3回の調査結果から、乳量が増え、分娩後のBCSが0.5ポイント以上低下し、低いBCSのまま長く推移した場合、分娩後の初回人工授精実施日に差がなくても、その後の受胎性は低下し受胎までの日数(空胎日数)が延長し、受胎に要する人工授精回数も多くなっていました。

この著者らの3回にわたる調査結果から、最も良好な繁殖成績は、初回発情日が平均38日、初回人工授精実施日が平均85日、空胎日数日が平均120日であった1回目の調査の初回排卵21日以内のグループでした。このグループは分娩後70日頃までBCS平均3.1から2.75まで低下し、その後平均2.9まで上昇しその後も同じ値で推移しています。このように分娩前のBCSが3.0~3.25で、分娩後は2.75以下に低下せずに回復するような栄養状態が保てると繁殖成績は良好です。一方、2および3回目の調査では、乳量が増えて分娩前のBCSが1回目の調査に比べて低く、分娩後のBCS低下割合が大きくかつ低い値で推移しています。このようにBCSが最低値に達した後に回復せず低い値で長期にわたって推移すると空胎日数が長くなります。

まとめ

分娩前後に負のエネルギーバランスに陥り、血中の栄養成分の濃度が低下すると免疫力も低下し、子宮や乳房の感染症が発生する可能性が高まり、結果的に受胎性が低下します(Chagas,2007)。また、分娩前後の採食量の低下と泌乳によるBCS低下および負のエネルギーバランスは卵胞発育・成熟・排卵に関与するホルモン(IGF-I、LH、エストラジオール)分泌に悪影響を与えます(Diskinら、2003)。さらに、不十分な卵胞発育・成熟は、プロジェステロンの分泌能にも影響し、血中プロジェステロン濃度の低下は、妊娠率の低下にも影響します(McNeill ら、2006)。泌乳牛の繁殖成績を良好に保つためには、適切な栄養管理が必須であり、そのためには定期的なBCS測定が効果的です。

最近、ホルスタイン種の繁殖成績の低下が長く続いていることから、さまざまな取り組みがなされています。ホルスタイン種と欧州原産の乳牛との交雑種生産の取り組みもその一つです。一方高泌乳と高い繁殖成績を確保している酪農家も少なくありません。このことは、適正な飼養管理を行えば、高泌乳と高い繁殖成績との両立ができることを示しています。また、今日のホルスタイン種は体格が大きく、やや小柄な体格の牛の方(久我ら、2013)が、繁殖成績の向上には有利に働くのではないかないかと思われます。

 

<参考文献>
堂地 修.乳牛における分娩前後の栄養状態と繁殖成績との関係.家畜人工授精 303:1-6 (2019).
堂地 修.乳牛における分娩前後の栄養状態と繁殖成績との関係(その2).家畜人工授精 304:8-14 (2020).
Chagas LM, Bass JJ, Blache D, Burke CR, Kay JK, Lindsay DR, Lucy MC, Martin GB, Meier S, Rhodes FM, Roche JR, Thatcher WW, Webb R. 2007. J Dairy Sci. 90:4022-4032.
Butler WR. 2003. Livestock production science 83:211-218.
Kawashima C1, Kaneko E, Amaya Montoya C, Matsui M, Yamagishi N, Matsunaga N, Ishii M, Kida K, Miyake Y, Miyamoto A. 2006. J Reprod Dev. 52:479-486.
Diskin, M. G., D. R. Mackey, J. F. Roche, and J. M. Sreenan. 2003. Anim. Reprod. Sci. 78:345–370.
McNeill, R. E., M. G. Diskin, J. M. Sreenan, and D. G. Morris. 2006. Theriogenology 65:1435–1441.
久我果奈、薄井泉佳、長坂将志、籾山京子、山岸美咲、今井 敬、堂地 修、高橋 茂. 2013. 繁殖技術33:36-38.

 

PDFは『乳牛の繁殖成績と分娩前後の栄養状態との関係』(1)と(2)をまとめたものです。

乳牛の繁殖成績と分娩前後の栄養状態との関係(2)
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