牛乳の殺菌方法
掲載日:2019.03.20
牛から搾ったまま何も処理されていないものを「生乳」と呼びます。生乳は殺菌処理を施すことで消費者が口にすることのできる「牛乳」になり、そこからさまざまな乳製品が作られます。牛乳にするための殺菌方法は温度や時間によっていくつかの方法に分けられます。
1.低温殺菌(LTLT法:Low Temperature Long Time)
これらの殺菌方法は、「低温保持殺菌」と呼ばれます。
・低温長時間殺菌法
保持式によって63℃以上で30分間加熱して殺菌する方法です。保持式とは、タンクなどに生乳を入れて加熱し、殺菌温度と時間を維持する方法です。
・連続式低温殺菌法
連続式によって、65~68℃で30分間加熱して殺菌する方法です。連続式とは、予熱部を持ち、そこからパイプラインを通る間に殺菌指定温度を保ち殺菌する方法です。
2.高温殺菌
・高温短時間殺菌法(HTST法:High Temperature Short Time)
72~75℃以上で15秒以上加熱して殺菌する方法です。
・高温長時間殺菌法(HTLT法:High Temperature Long Time)
75℃以上で15分以上加熱して殺菌する方法です。
3.超高温殺菌
・超高温瞬間殺菌法(UHT法:Ultra High Temperature)
120~150℃で1~3秒加熱して殺菌する方法です。低温殺菌や高温殺菌では残ってしまう菌もほぼ完全に死滅させることができます。短時間で大量の生乳を処理できるため、日本では9割以上がこの方法で殺菌されています。
・超高温滅菌殺菌法(LL法:Long Life)
135~150℃で1~3秒加熱して殺菌する方法です。光と空気を遮断できる密封容器に無菌的に充填することで、常温で長期間保存することができます。保存料等は添加されていないため、開封後は他の牛乳と同様に冷蔵庫で保管し、短期間で消費する必要があります。
低温殺菌牛乳はパスチャライズド(pasteurized)牛乳とも呼ばれます。この名前は、フランスの微生物学者ルイ・パスツール(1822-1895年)に由来します。パスツールは100℃を下回る温度(60℃程度)でワインや牛乳を殺菌し、食品の腐敗を防止する方法を開発しました。高温短時間殺菌(HTST乳)と同様に、タンパク質(ホエイタンパク質)の変性が少ないため加熱臭も少ないので、生乳に近い風味を味わうことができます。耐熱性の芽胞菌(熱に強く生き残る芽胞と呼ばれる部分を持つ)や耐熱性菌の一部は死滅させることができないため、賞味期限は短くなっています。
超高温で殺菌すると、牛乳には加熱臭(こげ味)が生じます。生乳の風味から若干離れてしまいますが、これを「コク」と感じる人もいます。
殺菌方法によって風味に若干の違いはありますが、栄養価はほとんど同じです。また、殺菌はしていてもLL牛乳を除けば牛乳はどれも要冷蔵の生鮮食料品です。購入したら直ちに冷蔵庫で保管してください。風味は季節や牛が食べているものによって変わったり、牛乳の温度や飲む人の体調によって感じ方が変わったりします。その時の自分に合った方法でおいしく牛乳を摂りましょう。
【豆知識】
なぜ殺菌をするのか?
生乳には、ウシにも人にも感染する可能性のある感染症(人獣共通感染症)の病原体が混入しているかもしれません。日本では法令により、牛乳として販売するためには、生乳に対して、耐熱性の高い病原菌である結核菌が完全に死滅するのに必要な加熱条件(摂氏63℃まで加温して30分間保持する)を満たし、これと同等以上の効果を示す殺菌処理を行なうこととなっています。
なお、先進諸国においては、人獣共通感染症の原因菌としてQ熱病原体(コクシエラ菌)の耐熱性に基づいて牛乳殺菌の条件が定められており、2002年には日本でも法令改正によって、コクシエラ菌が死滅する条件である63℃30分間保持すると同時に、昇温に20分以上かけることとされました。