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衛生

安全・衛生・防疫講座「感染症の成立を阻止せよ!」(中央酪農会議『感動通信』vol.63より)

掲載日:2021.11.02

酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医細菌学ユニット
講師 村田 亮

 

感染源・伝播経路・感受性宿主の3要因、どれか一つでもなくせば感染症は起こらない

酪農教育ファーム活動にとって、感染症は大敵です。牛がかかる病気も、人がかかる病気も、農場には入れない、拡げない、持ち出さないのが大原則です。牛と直に触れ合い、いのちの大切さと牛乳の温かさを知ることができる貴重な体験も、その後で体調を崩してしまっては台無しです。感染症がどのようにして成立しているのか、基本に立ち戻って日々の飼養管理や酪農教育ファーム活動を見直してみましょう。 感染症は、「感染源(病原体)」、「感受性宿主かんじゅせいしゅくしゅ」そして、その2つをつなぐ「伝播経路」の3要因が揃ってはじめて成立します。当たり前のことですが、逆にこの3要因のうち、どれかたった1つをなくしてしまえさえすれば感染症は防げるのです。私たちのどのような行動が感染症成立に関わっているのか、どのようにして3要因を打ち消すことができるのかを知ることで、意外と難しい話ではないと感じていただけると思います。 まず、「感染源」についてですが、これは病原体そのもの、または病原体に感染した動物などを指します。ウイルスや細菌といった微生物を地球上から駆逐してしまえば、もちろん感染症も消滅します。単純そうな話ですが、これがなかなか難しいのです。科学技術が発達した現代でも、撲滅できた病原微生物はたった2つしかありません。まずは有名な天然痘。人類を長く苦しめてきたウイルス病ですが、昭和55年に根絶宣言が出されました。それから20年以上が経ち、平成23年までにやっと、牛の病気である牛疫が根絶されました。感染する動物の種類が多く、野生動物からうつされるような病気はなかなかコントロールできません。また、不顕性感染といって、感染しても症状が出ないことのある病気は発見される前に伝播してしまうため、とてもやっかいです。COVID-19(新型コロナウイルス)も若年層においては不顕性感染が多いため、本人も気付かぬうちに感染源になってしまうという特徴が流行を長引かせています。

次に「感受性宿主」です。「感受性」とは、病原体に感染し得るという意味ですが、これを「抵抗性」に変えてしまえば感染症は防げます。その一番の武器がワクチンでしょう。動物の体内に弱らせた病原体や病原体の一部を接種することで、いわば病気の予行演習をさせるのがワクチンです。一度病原体の特徴について記憶した身体は、ホンモノが侵入してきた時に素早く、力強く戦うことができるのです。牛も人も、予めワクチンを打っておくことで多くの感染症を予防することができますが、ワクチンのない病気もありますし、全ての病気のワクチンを打っておくことは難しいので、農場ごとに特にリスクが高いと思われる病気について優先して接種する必要があるでしょう。

最後に、最も私たちが対策しやすいのが「伝播経路」です。宿主が病原体と接触しなければ、もちろん感染症にはかかりません。適切な消毒剤の使用や牛舎内外の動線の見直しによって、牛と病原体、見学者と病原体が接触しない工夫が重要です。