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衛生

安全・衛生・防疫講座「感染症の伝播経路を遮断しよう」(中央酪農会議『感動通信』vol.64より)

掲載日:2021.11.02

酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医細菌学ユニット
講師 村田 亮

 

日々、小さな感染症予防対策を行うだけで、大きな効果が!

残念ながら新型コロナウイルス感染症自体の流行はまだまだ続いていますが、その対策として手洗いやマスク着用が徹底された結果、インフルエンザのような他の呼吸器感染症が激減しています。私自身も、これまで年に数回は風邪を引いていたのですが、気が付けばこの一年間ほとんど体調を崩していません。日々、小さな感染症予防対策を行うだけで、こんなに大きな効果があるのかと実感しています。

酪農現場で特に重要視される感染症について、具体的な伝播経路とその対策を考えてみましょう。

牛の下痢の原因となるサルモネラは、同居牛へと簡単にうつってしまうので、感染牛の隔離が重要です。牛舎内での感染拡大阻止は、人の動線がカギになります。わずかな糞便からも感染が起こるため、人間が同じつなぎ、同じ長靴で行き来してしまっては意味がありません。何度も着替えるのが現実的でない場合は、感染個体への接触作業を最後にするといった工夫を心がけましょう。これは乳房炎にかかった牛を搾乳するときにも、みなさん実践されていることかと思います。同様に、見学者の動線もキレイなゾーンからスタートして、より汚染度の高いゾーンへと一方通行で各種体験をしてもらうことで様々な病原体の伝播コントロールにつながります。

一方、体験者への感染が心配なのがO-157です。O-157は、牛に対しては病原性を示さない大腸菌ですが、人に感染してしまうと激しい出血性腸炎を引き起こします。偶発的に牛の糞便が口に入ることがないように、体験中の飲食や乳児のおしゃぶりなどは控えてもらいましょう。牛舎から出た際に入念な手洗いをすることはもちろん、手指に付着した汚れが口元に触れることを防ぐ意味でマスクの着用も有効です。

口蹄疫は人にはほとんど感染しませんが、牛や豚が感染すると著しい生産性の低下を招きます。原因となるウイルスは人や物に付着したり、場合によっては風に乗って運ばれてくることもあるのでやっかいです。風が吹くのを止めることはできませんが、農場を出入りする車両の消毒、靴底の消毒は徹底されているか改めて確認しましょう。見学者に悪気はなくても、同じ日に複数の農場に出入りすることはタブーと知らずに来場している可能性があります。感染症の伝播につながる行動について、事前に必ず説明することも“酪農教育”です。

海外からの来場者にも、来日後一定の期間(飼養衛生管理基準では1週間)は農場には立ち入れないことを伝えましょう。

このように、いずれの感染症においても、現場での少しの心掛け、習慣づけで十分な効果が得られることがお分かりいただけたかと思います。