安全・衛生・防疫講座「飼養衛生管理基準の自己点検を」(中央酪農会議『感動通信』vol.66より)
掲載日:2022.05.20
酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医細菌学ユニット
講師 村田 亮
感染症対策を徹底しよう!!
国内で口蹄疫や豚熱など経済的に大きな損失をもたらす家畜伝染病の発生を防ぐために、伝染病の侵入防止、発生予防を目的として、家畜所有者が守るべき「飼養衛生管理基準」が定められています。詳細は農林水産省ホームページに掲載されており、逐次改訂されるため小まめな情報収集が重要です。基準を遵守できているかどうか同ホームページ上のチェックリストで自己点検してみましょう。・・・とはいえ 、牛では38項目、記入欄も60を超えており、一度に網羅、把握するには少しハードルが高いかもしれません。酪農教育ファーム活動として、特に気にしていただきたい部分について触れてみたいと思います。
まずは「家畜防疫に関する最新情報の把握及び衛生管理の実践」ですが、テレビやインターネットからの情報で構いません。感染症の発生動向について随時アンテナを拡げておきましょう。同じ国内であっても、地域によって流行状況が変わってきますので、使用する消毒剤の強弱や見学者受け入れ態勢のマイナーチェンジが必要となります。また、「飼養衛生管理マニュアルの作成及び従事者等への周知徹底」ですが、ホームページの例を参考に、まずはフロー図から作成してみてください。飼養衛生管理基準では様々な場面で「記録の作成及び保管」が求められますが、スタッフが共通の認識を持って臨まないとなかなか習慣化されないのが“記録”です。と言いながらも、私の研究室でも油断すると実験室入退記録が閑散としていきます。定期的な記録チェックとスタッフへのフィードバックもマニュアルに明記しておくと効果的かもしれません。
酪農教育ファーム活動において、最も注意すべきは病原体を入れない・拡げない・持ち出さない、の三原則です。衛生管理区域へは必要のない者や海外からの入国者など病原体を持ち込むリスクの高い者の立ち入りを制限した上で、立ち入る者には十分な洗浄・消毒を実施します。洗浄・消毒を適正に実施しやすい環境づくりを農場側が積極的に取り組むことも重要です。区域から退出する際にも再びこれらを徹底することはもちろん、注意したいのは区域内での動線です。専用作業着やブーツカバーの更衣前後で経路や見学ルートが往復したり交差していたりしないでしょうか。一方通行の動線に留意されていれば、万が一病原体が持ち込まれてしまった場合にも、区域内での拡散を最小限に抑える効果が期待できます。
新型コロナの流行によって対面での活動が制限される時期が続きました。逆に今後「生の体験」が強く求められる時期がやってくるはずです。感染症の対策を徹底し、より充実した酪農教育ファーム活動が実践される日が一日も早く来ることを願ってやみません。
(おわり)