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施設衛生

農場のバイオセキュリティを考える ≪第4回≫飼養衛生管理基準

掲載日:2020.07.20

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 髙橋 俊彦

酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程
 北野 菜奈

はじめに

今回は、家畜伝染病予防法施行規則第21条で規定されている飼養衛生管理基準を基に紹介します。

飼養衛生管理区域は、まず自らの農場の敷地を「衛生管理区域」(農場作業スペース)と「それ以外の区域」(生活スペース)に分け、両区域の境界が分かるようにしなければいけません(図1)。現場で最も難しいのがこの“境界分け”です。通常の作業がやりづらくなるのは当然ですし、それ自体に慣れていない農場関係者が多いために大変厄介ですが、ここが一番重要な農場衛生のポイントなので、衛生管理の最重要課題の一つであることを理解してほしいと思います。

両区域の境界線(写真)は、誰にでも分かるように柵やカラーコーン、あるいは石灰帯などでも十分です。要は、農場関係者や来訪者に衛生管理区域だと認識されれば良いのです。

1.衛生管理区域の衛生管理

(1)衛生管理区域への病原体の持込みを防止
衛生管理区域の出入り口を必要最小限の数とし、必要のない者を衛生管理区域に立ち入らせないようにする。外部から立ち入る者が飼養する家畜に接触する機会を最小限とするよう、当該場所に看板などを設置する。

(2)ウイルス侵入防止のための畜産農家の義務
家畜の所有者は、畜舎などへの出入り口付近に消毒設備を設置しなければならない。また、人・車両の出入りに際しての消毒を義務付けるものとする。

(3)病原体持ち込み防止の実践①
衛生管理区域の出入り口付近に消毒設備(消毒機器を含む)を設置し、車両の出入りの際に消毒をする。

(4)病原体持ち込み防止の実践②
衛生管理区域や畜舎の出入り口付近に消毒設備を設置し、立ち入る者が出入りする際に手指や靴の消毒(手指については、洗浄または消毒)を行わせる。

(5)病原体持ち込み防止の実践③
その日のうちにほかの農場などの畜産関係施設に立ち入った者(家畜防疫員、獣医師、人工授精師、削蹄師、飼料運搬業者、集乳業者等を除く)や過去1週間以内に海外から入国した者(帰国者を含む)は、衛生管理区域に立ち入らせない。

(6)病原体持ち込み防止の実践④
ほかの畜産関係施設で使用した、または使用した可能性のある物品であり、飼養する家畜に直接接触する物品を衛生管理区域内に持ち込む場合には、洗浄または消毒をする。なお、家畜の管理に必要のない物品を畜舎に持ち込まないようにする。

(7)野生動物による病原体の侵入を防ぐ
畜舎の給餌設備・給水設備や飼料の保管場所に、ネズミ、野鳥などの野生動物の排せつ物などを混入させない。

(8)衛生管理区域の衛生状態を保つ①
畜舎、そのほかの衛生管理区域内の施設や器具の清掃、または消毒を定期的に行う注射針、人工授精用器具、そのほか体液(生乳を除く)が付着した物品を使用する際は、1頭ごとに交換または消毒をする。家畜の出荷・移動により畜房やハッチが空になった場合には、清掃および消毒をする。

(9)衛生管理区域の衛生状態を保つ②
家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態で家畜を飼養しないようにする。
 <参考値(1頭あたり面積)>
 乳用牛 単飼 2.4㎡、群飼 5.5㎡
 肉用牛 単飼 2.0㎡、群飼 5.4㎡

2.効果的な消毒

(1)効果的な畜舎消毒の手順
 1)清掃(片付け)
 2)牛ふん・敷料・残飼をきれいに取り除く
 3)洗浄・水洗 清掃で除去できなかった有機物を完全に除去する
 <洗浄の重要性について>
 図2の①の状況は、微生物と有機物が床で混在している。②で洗浄し有機物を除去、③で水洗して有機物をさらに流し、④そこに消毒剤を利用する事により微生物まで届く。
 ・消毒効果は“洗浄作業にかかっている”と言っても過言ではありません!
 ・有機物の除去だけではなく、その後の消毒効果を高めます!
 ・水洗作業時に洗浄剤を使用することで、さらに効果アップ!
 4)乾燥
 <乾燥の重要性>
 図3のぬれた状態では消毒効果が減退する。
 ・乾燥は菌を殺す重要な消毒手段の一つ
 ・その理由は、水分のない状況では菌は増殖・生存できないので、消毒効果を高める。
 5)消毒
 6)乾燥

(2)踏み込み消毒槽
踏み込み槽の設置意義は、①侵入防止→病原体の持ち込みを最大限に防ぐ②まん延防止→疾病が発生した畜舎から非発生畜舎への拡散を防ぐ③消毒に対する意識付け―と大きく3点です。

長靴などは肉眼的にきれいに見えても、病原体は存在します。事務所入り口、各畜舎の出入り口に踏み込み槽を設置します。長靴洗浄用の槽を一つ用意すると効果的です。ブラシも備え付けておきましょう。
表は、豚ぷんで汚染した長靴を用いた消毒試験において、踏み込み消毒時に水洗(ブラッシング)を併用する意義について示しています。

細菌数は、方法1の予備洗浄も消毒もない方法より、方法3の2分間消毒では10分の1に減少します。しかし、方法4の予備洗浄なしで消毒とこすり30秒では1,000万分の1と大幅に減少します。また、方法5の水とこすり30秒のみ(消毒なし)においても大きく減少します。すなわち、いかに予備洗浄とこすりが重要か理解して下さい。

農場のバイオセキュリティを考える ≪第4回≫飼養衛生管理基準
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