農場のバイオセキュリティを考える ≪第6回≫牛舎の衛生対策(石灰塗布)
掲載日:2020.09.18
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授 髙橋 俊彦
酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程 北野 菜奈
はじめに
今回は、牛舎の衛生対策に必要な“石灰塗布”について解説します。
農場で感染症が発生すると、まずは舎内全体の清掃を行い、その後消毒をします。その消毒の中でも効果的なのが石灰塗布です。しかし、必要性や効果は認識されているものの、生石灰の発熱による危険性や各種設備準備の手間、人の確保や洗浄作業など、大型動力噴霧器での石灰塗布は、そう簡単には取り組みにくい衛生対策です。
最近、各地で簡単・手軽に石灰塗布を実施できる“万能ガン”を使った作業が注目されています。石灰塗布に使用する新資材も発売され、取り組みやすくなった「手軽な石灰塗布」の考え方と手法を、北海道・宗谷農業改良普及センター宗谷北部支所の米田美保支所長の全面的な協力と助言により紹介します。
1.石灰の特徴と塗布の目的
畜舎消毒に使用される生石灰・消石灰は、①強アルカリで細菌やウイルスを不活化する②吸湿性が高く乾燥しやすい③安価である―などの特徴があります。このような特徴を持った石灰を、石灰乳として塗布することで、細菌やウイルスを不活化して閉じ込め、牛への感染機会を減少させます。
(1)ガンでの手軽な石灰塗布
万能ガン(リシンガン、スプレーガン)は、壁面などの塗装に使われる小さな噴霧器で、石灰塗布に万能ガンを使用することで、吹き付けの厚さの調整が容易となり、きれいに塗布することができます。熱の危険を避けるため、消石灰または石灰乳を基本とする塗布資材を使用します。
(2)塗布の場所とタイミング
手軽な石灰塗布は随時実施する事が可能です。必要な場所で手軽に行える万能ガンでの石灰塗布は、農家が衛生対策に着手しやすく高い効果が得られます。
(3)手軽な石灰塗布の順序
1)清掃
塗布前は、通常どおり壁のふんや汚れを取っておく。軽く汚れている程度の場合は、そのまま塗布し塗り込む。水洗浄は行わない。
2)資材の準備
石灰資材と水を攪拌機にて攪拌(写真1)。
3)塗布
コンプレッサーに接続した万能ガンへ、攪拌した石灰資材を入れて塗布する。塗布の厚さは、ガンを動かす腕のスピードで調整する(写真2)。
2.石灰資材の考え方と新資材の特徴
石灰塗布に使われる資材は、いずれも強アルカリで細菌やウイルスを不活化させるもので、安全性や扱いやすさ、価格などで選択します。
新資材の「ゼオ石灰」は、消石灰にゼオライトと糊成分を配合した商品で応用が簡便です。道総研畜産試験場によると、ゼオ石灰は主な石灰塗布資材と同様に強アルカリであり、サルモネラなどに対する除菌効果も同等との結果が出ています。
従来の資材と異なるのは、①吸湿・アンモニア抑制効果をもつゼオライトを配合している②天然海草由来の糊成分で、壁面への付着を高めている③ゼオライトは風で乾燥が進む性質があり、特徴的なのが低温条件下での塗布が可能である―という点です。新資材の発売によって、季節、扱いやすさ、価格などを考慮した資材選択の幅が広くなりました。
3.「手軽な石灰塗布」に必要な道具を準備するときの留意事項
(1)万能ガン
1)石灰乳の送り方の違い
ゼオ石灰は石灰の沈殿が起こりにくい資材だが、ほかの資材は沈殿しやすいため、コック式の万能ガンだと詰まりやすい。どの石灰塗布資材でも使いやすい噴霧器を選択するなら、手元操作でフタを開閉するタイプの万能ガンが有効である。
2)ノズルの口径
石灰資材を細かくきれいに吹き付けるには、4~5mm前後の塗料ノズルが適している。
3)容量と本体重量
石灰の比重が重いため、女性や高齢者でも手軽にできることを考慮すると、容量は2~3Lが適当。
(2)コンプレッサー
万能ガンの仕様書通りの空気圧力(MPs)と空気使用量(L/分)を満たす能力のコンプレッサーを使用する。
(3)電動ドリルと攪拌機(棒)
ゼオ石灰の場合、糊成分を機能させるため電動ドリルを使って十分に攪拌する必要がある。
(4)その他
バケツ、コンプレッサー用のホース、電気ドラム、メガネ・手袋・マスクなどの保護資材などが必要。
このように、以前の石灰塗布と比較して非常に簡単で労力的にも軽減でき、寒冷時にも応用可能な石灰塗布は魅力的であり、現場での多くの応用が可能と思われます(写真3、写真4)。
石灰塗布は効果が非常に良好ですが、これまでは面倒で農家自身で積極的に応用できるものではありませんでした。その点、この「手軽な石灰塗布」は十分に応用可能な手法だと思われます。ぜひお試しを!
<参考文献>
1)米田美保(2015) 農家の友.
2)日本農業新聞(2016).
3)及川学(2015)「消石灰・ゼオライト系畜舎消毒資材のサルモネラ菌に対する消毒効果」受託研究報告.