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土壌・草地

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

掲載日:2018.10.08

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 三枝 俊哉

はじめに

前回は草地をちゃんと作る「草地更新」のお話でした。今回からは、ちゃんと作られた草地を長持ちさせる「維持管理」のお話になります。草地更新は機械施工の労力や土壌改良資材、種子等の資材費といった維持管理時には使わない手間や経費がかかるので、やらないに越したことはありません。どうしたら良い草を長く維持できるのか?それにはまず、草地土壌の特徴について知ることが重要です。ここでは、気温の比較的低い地域で使われる寒地型の牧草が栽培される草地での土壌の特徴についてお話します。

草地土壌の特徴を作り出す最大の要因:毎年耕起しないこと

寒地型草地が水田や畑と最も大きく異なる点は、毎年耕起しないことです(図1)。これが、後述する草地土壌のさまざまな特徴を作り出しています。

寒地型牧草は多年生で、一度定着した株は何年にもわたって生き続け、茎葉を生産します。1本1本の茎(分げつ)は、発生し、成長し、穂や花をつけて、枯死するのに最大2年程度かかるとされています(松中、三枝2016)。寒地型牧草は、その種類によって、発生、成長、開花の盛んな時期が異なります。しかし、いずれの場合にも、1本の茎がその寿命を終えたら次の世代に交代して、茎数の密度を維持することで、毎年の生産性を保っています。この分げつの世代交代がうまくいっている限り草地の生産性は低下しないので、草地を更新する必要もありません。分げつの生活史については、次回、詳しく説明します。

今ここで重要なことは、耕起することなく利用、管理を繰り返したときに、草地土壌に何が起こるか?ということです。毎年、肥料を草地の表面に散布し、地上部の牧草を刈り取りまたは家畜に採食させると、草地土壌はどうなっていくのでしょう?

特徴1 草地表層への養分と根の集積

まず、草地の表層に肥料養分と根群が集積します。

草地への施肥管理は、おおむね利用するごとにおこなわれます。たとえば北海道の採草地では、春の雪解け後に1番草のために必要な肥料が散布されます。1番草が収穫されると、次は2番草のために肥料が散布されます。化学肥料はブロードキャスタという機械で、また、堆肥やスラリーはそれぞれ専用の散布機で、いつも草地の表面に均一に散布されます(写真1)。草地表層に散布された肥料は、土壌の水分に溶けて土にしみ込みます。このため、草地土壌の肥料養分含量は、表層に近いほど高いという偏った分布を示すようになります(図2;平林ら1985)。多年生である牧草は、この土壌養分環境によく適応し、地表下0-5cmくらいの草地表層に根群を集中させます。特に、地下茎をもつイネ科牧草が優占度を増すと、ルートマットと呼ばれる地下茎と根の密集した層が形成されます(図3)。こうした表層への養分と根の集積は、草地が毎年耕起されないために起こる変化です。

ルートマットを含む表層の根群層には世代交代を終わって枯死した根も含まれますが、牧草の養分吸収はこの草地表層において盛んにおこなわれています。32Pという放射性同位体を草地表層と5cm、10cm深に施用して、牧草がリンをどの程度吸収したかを調査した結果、浅いところに施用したリンほどたくさん吸収利用していることがわかっています(図4;大村・赤城1984)。また、採草地土壌のカリウムの収支をみてみると、牧草によるカリウム吸収量は0-15cmの土壌から減少した交換性カリウムの量とほぼ等量でした。生産現場で普通にみられる年間カリウム吸収量20kg/10a程度の水準では、0-5cm土層でも収支が一致したと見なせます(図5;三枝ら1990)。これらの試験結果により、現在、北海道における維持管理草地の土壌診断は0-5cmの土層を対象におこなわれています。もちろん、深層の養分が全く利用されないということではありません。アルファルファのような深根性の牧草では下層土の性質も大切でしょう。しかしその場合でも、土壌養分環境改善のために最初におこなうべきことは、表層0-5cmの土壌化学性に対応した施肥管理です。

特徴2 草地の不均一性

毎年耕起せずに草地を管理していると、水が溜まりやすい凹地や干ばつ・冬枯れの起きやすい凸地の基幹草種がパッチ状に衰退し、播種していなかった草本類が侵入して、優占度を増やすことがあります。地下茎を拡大するリードカナリーグラスやシバムギといった地下茎型イネ科草や埋土種子で繁殖するエゾノギシギシなどの優占度が増えると、収量や粗飼料品質への悪影響が目立ってきます(写真2左)。水田や畑作では毎年耕起して特定の作物を播種し、それ以外の草本を雑草として駆除することで、単一作物の群落を形成させます。しかし、草地では、播種していない雑草も一緒に収穫して粗飼料として利用します。生産性を維持するために基幹草種の優占度を保つには、手取り除草や選択性除草剤の処理が必要な場面もありますが、まずは基幹草種に適した利用管理で草種間競争を有利に導く生態学的な手法が基本となります。

放牧草地では、家畜は草を食べるとともに、ふん尿を排泄します。ふんの周囲の草は食われず、ふんからの栄養補給でどんどん成長します。家畜は短い草が好きなので、伸びた草はよけい食べなくなり、ふんを中心に伸びた草のパッチができます。これを不食過繁地といいます。ふんが分解すると不食過繁地も徐々に消滅しますが、その頃には別の地点で不食過繁地が形成され、放牧草地はいつも、まだら模様の景色になります(写真2右)。不食過繁地では排泄ふん尿によって土壌養分含量が高まり、上に伸びやすい草が優勢となるので、放牧草地の土壌養分含量や草種構成は、採草地よりもずっと多様になります。

先の項目で述べた草地表層への養分や根の集積が垂直方向の不均一化とすれば、ここで触れたパッチ状の草種構成と土壌養分の偏りは水平方向の不均一化といえます。このような不均一は毎年耕起していればある程度リセットされますが、寒地型草地ではそれをおこなわないので、更新後の年次の経過に伴って、3次元的に不均一化が進みます。

特徴3 土壌の酸性化

これは草地に限らず、年間の降水量が蒸発散量を上回るわが国の露地圃場で共通に起こる現象ですが、草地では酸性矯正資材を作土に混和できる機会が草地更新時に限られるため、特に特徴的に指摘される現象です。

維持管理時の草地土壌の酸性化を促進する大きな理由のひとつに、施肥が挙げられます(図6)。肥料に含まれる窒素、リン、カリウムは、たいてい硫酸アンモニウムや塩化カリウム、リン酸アンモニウムなどの塩の形態をしています。これが土壌に含まれる水に溶けると、電離したアンモニウムイオン、リン酸イオン、カリウムイオンが作物に吸収されます。しかし、相方の硫酸イオンや塩化物イオンは窒素、リン、カリウムほどたくさん吸収されないので、土壌溶液中にはこれらの陰イオンが多く残ります。土壌粒子の表面は平均的には負に荷電しているので、雨や融雪で水が土層の上から下に浸透すると、陰イオンは土壌表面の負荷電に反発してその土層にとどまることができず、水と一緒に下層に移動します。このとき、陰イオンは土壌溶液の電気的中性を保つため、土壌表面に静電気的に吸着していたカルシウムやマグネシウムなどの陽イオンを引きはがして、一緒に流亡させます。こうして土壌からカルシウムなどのミネラルが減っていき、酸性化が進みます。これが、草地土壌の酸性化が施肥によって促進される理屈です(宝示戸ら1987)。土壌の酸性化が進むと、アルミニウムイオンが増えて根が痛むとか、リンの肥料効果が落ちるとか、有機物の分解速度が落ちるなど、草地でも良いことがありません(寳示戸 1994)。土壌pHは5.5-6.5くらいの範囲に維持したいところです。上記の理論によれば、施肥で低下する分の土壌pHを維持するには、肥料に随伴する陰イオンを中和するだけの石灰質資材を施用すればよいということになります(宝示戸ら1987)。現在その量は、炭カルで年40kg/10a程度と見積もられています(北海道農政部 2015)。

まとめ

寒地型草地は毎年耕起されません。すると、土壌養分や根は草地の表層に集積し、草種構成や土壌養分の分布が不均一化し、土壌の酸性化が進みます。この現象は草地の利用形態からみて必然的に起こることですが、人為的に制御できる場面も多くあります。単年度の生産性もさることながら、これを後世まで持続的に維持するための制御方法が、草地管理には求められます。

 

<引用文献>
平林清美・松中照夫・近藤煕(1986)北海道草地研究会報,20.163-166.
北海道農政部(2015)北海道施肥ガイド2015,197-229,北海道農政部,札幌.
寳示戸雅之(1994)北海道立農業試験場報告,83,1-109.
宝示戸雅之・佐藤辰四郎・高尾欽弥(1987)日本土壌肥料学雑誌,58,92-95.
松中照夫・三枝俊哉(2016)草地学の基礎-維持管理の理論と実際-,p11-23,農山漁村文化協会,東京.
大村邦男・赤城仰哉(1984)北海道立農業試験場集報,51,61-72.
三枝俊哉・菊地晃二・近藤煕(1990)北海道立農業試験場集報,60,99-109.

図1 草地土壌の特徴【毎年耕起しない】

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

写真1 毎年の維持管理は表面施用(上:ブロードキャスタ 下:スラリー散布機)

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

図2 草地における垂直方向の不均一性/図3 養分・根群の表層への集積

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

図4 牧草はどの層位からリンを吸収しているか/図5 草地土壌のカリウム肥沃度は概ね0-5cm層で評価できる

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

写真2 草地における水平方向の不均一性(左:採草地、右:放牧地)

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

図6 草地への施肥が土壌の酸性化を促進する

草地の土づくり ≪第2回≫草地土壌の特徴

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