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栄養・飼料

飼料作物の生産と調製―理論と実際― ≪第3回≫飼料作物の調製利用~サイレージ発酵の理論~

掲載日:2019.08.07

酪農学園大学
副学長
 野 英二

はじめに

乳牛への給与粗飼料としてサイレージは重要な存在です。北海道のような土地を基盤とした酪農経営における成牛への飼料給与体系では、粗飼料のほとんどがサイレージとなっています。

サイレージは含水分状態での貯蔵飼料であり、その調製には多くの微生物が関与しています。この微生物の活動による原料の変化をサイレージ発酵と呼び、発酵状態の良否(発酵品質)はサイレージの飼料価値に影響を与えます。つまり、飼料価値は原料材料の栄養価と発酵品質によって決まります。

サイレージに関与する微生物は乳酸菌、好気性細菌、酪酸菌、カビおよび酵母であり、その特性は以下のとおりです。

1.サイレージに関与する微生物

(1)乳酸菌
乳酸菌は炭水化物を発酵させ、代謝産物として乳酸を産生する細菌の総称です。乳酸菌はサイレージ発酵にとっては最も重要な菌であり、糖(WSC:可溶性炭水化物)を乳酸に転換します。乳酸の生成様式によってホモ型乳酸菌とヘテロ型乳酸菌に分類されます(表1)。

ホモ乳酸発酵は糖(グルコースやフルクトース)を理論的に乳酸に100%変換させます。ヘテロ発酵は最終産物として乳酸のほか、酢酸、エタノール、マンニトールおよび二酸化炭素(CO2)を生成します。サイレージの有用な発酵は乳酸発酵であり、中でもホモ型発酵乳酸菌がサイレージ調製のうえで最も有用な菌といえます。

(2)好気性細菌と通性嫌気性菌
牧草などには空気の存在下で活動する好気性細菌と、空気の有無にかかわらず活動する通性嫌気性菌が多く存在します。これらの菌は、サイロ内に入るとサイロ内の空気を利用して活発に呼吸を行い、サイロ内の酸素を消費します。

この呼吸作用は原料草の糖を消費してCO2、水、さらに熱に変換することから養分が損失します。これらの活動を完全に抑えることはできませんが、良質サイレージ調製のためには呼吸作用の時間を短くすることが重要です。また、これらの菌には糖を利用して酢酸を生成するものがあります。

(3)酪酸菌(Clostridium属)
Clostridium属に含まれる細菌は嫌気的条件下だけで発育が可能な菌(偏性嫌気性菌)で、糖や乳酸から酪酸を生成することから酪酸菌と呼ばれています。酪酸菌は植物体には多く存在しませんが、土壌に生息する菌であるため、サイレージ調製時に土壌が混入することによってサイロ内に侵入しやすくなります。

酪酸菌はタンパク質(アミノ酸)を分解し、アンモニアを生成することから、サイレージ発酵では劣質サイレージの原因菌として注視すべき細菌です。

(4)カビ(真菌類・糸状菌)
カビはサイレージ発酵に何ら役立たず、好気的条件下ではサイレージの変敗の原因になることが多い菌です。サイレージには多種のカビが存在します。サイレージ発酵(熟成)中は増殖しませんが、開封後にサイレージが空気にさらされると増殖することがあります。カビにはマイコトキシン(カビ毒)を生成するものもあり、乳牛への影響が懸念されます。

(5)酵母
酵母は通性嫌気性菌ですが、酸素の全くない環境では活発に活動できません。サイロ開封後の酸素供給によって増殖します。酵母は糖を分解し、アルコールとCO2を生成します。

2.サイレージの発酵過程

良質サイレージは、乳酸発酵が主体となることが基本でした。そのサイレージ発酵における主な微生物との関係(発酵過程)は表2のとおりであり、乳酸菌が産生する乳酸がサイレージ発酵を制御するものでした。

現在は乳酸発酵を主体としないサイレージ調製も行われています。しかし、いかなるサイレージ調製法であっても、その概念は同じです。すなわち、良質サイレージ調製の基本は、サイレージ発酵に関与する微生物を制御することにあり、①好気性の微生物の増殖を抑制する、②有害な嫌気性菌(酪酸菌)による変敗を抑制する―ことです。

好気性微生物はサイロ内を嫌気的条件にし、有害嫌気性菌(酪酸菌)はサイレージのpHを低くしますが、原料草の水分含量を調整(低水分化)することでその活動を抑制することができます。

3.サイレージ発酵を決定する要因

(1)サイロの嫌気度

1)サイロの完全密封
好気性の微生物の生育を抑えるにはサイロを密封し、嫌気的状態にする必要があります。このことは、サイレージ調製の中で最も重要な基本技術です。サイロ詰め込み中、さらに詰め込み直後のサイロ内は好気的であるため、好気性の微生物の抑制にはサイロへの詰め込みは短時間で行い、直ちに密封し、できるだけ早く嫌気的状態にする必要があります。

貯蔵中のロールラップフィルムのピンホール(小さな穴)や、サイロのビニールカバーの破損による空気への曝露はカビの発生原因になります。

2)サイロ内原料の高密化
原料草を高密度に詰め込むことは、サイロ内の空気を排除することになるため、サイレージの品質を高めます。また、開封後の好気的変敗の防止にもなります。サイロ内の密度を高めるためには、原料草の細切、踏み込み(踏圧・鎮圧)、詰め込み後の加重を行います。

(2)サイレージのpH
サイレージのpHを低くすることで、嫌気性菌である酪酸菌の生育を阻止することができます。酪酸菌は酸性に弱く、pHを4.2以下にすると不良発酵が抑制されます。pHを低くするには、乳酸発酵を促進させるか、ギ酸などの酸を添加して詰め込み初期からpHを下げる方法があります。乳酸発酵の促進は、原料草の糖含量と原料草に付着している乳酸菌数に影響されます。

(3)原料草の水分含量
原料草の水分含量を低く(予乾)すると、微生物全体の活動は抑制されます。特に、酪酸菌の活動は顕著に阻止されます。従って、予乾して調製したサイレージは乳酸発酵も抑制され、pHの高いサイレージになりますが、不良発酵が抑えられるため良質のものが得られます。

4. 乳酸発酵に影響する要因

良質サイレージ調製の基本は、乳酸発酵を促進するか、あるいは発酵を抑制するかです。トウモロコシサイレージは乳酸発酵を促進したものであり、旧来からのサイレージ発酵の基本的な概念です。乳酸発酵に影響する要因は以下のとおりです。

(1)乳酸菌
乳酸発酵の主役は乳酸菌です。乳酸発酵が優先的に行われるための乳酸菌数は材料1g当たり10万cfu以上が必要ですが、材料に付着している乳酸菌の数はこれよりも少なくなります。従って、近年は乳酸発酵を促進する方法として、乳酸菌製剤の添加剤が多く利用されています。

(2)糖(可溶性炭水化物、WSC)
乳酸は糖から生成されます。一般にサイレージ原料の糖は可溶性炭水化物(WSC)として表され、ブドウ糖、果糖、ショ糖、フルクトサンなどの易発酵性の糖です。良質サイレージを調製するためには、乾物中10%以上が必要とされています。トウモロコシはWSC含量が高く、良質なサイレージが調製されやすくなっています。一方、牧草は草種、刈り取り時期、施肥などによって変化し、低い傾向にあります。本学附属農場の圃場における1番草のWSC含量(2008年)を図に示しました。イネ科牧草(チモシー、オーチャードグラス)のWSC含量は圃場間に大きな差があり、10%を超える圃場は20圃場中4圃場と少ない傾向にありました。アルファルファは圃場間差が小さいですが、6~8%と低い範囲にありました。

(3)水分
水分含量が低くなると微生物の活動は抑制され、特に酪酸菌において顕著です。乳酸発酵は水分含量60~70%が適しています。

(4)温度
乳酸菌の発育適温度はおおむね20~30℃です。原料の糖含量が高い場合は温度の影響は少ないですが、糖含量が低い場合は環境温度が高いと不良サイレージになりやすい傾向にあります。

(5)原料草の緩衝能
pHの変化を抑制しようとする性質を緩衝能といいます。緩衝能が強いと乳酸が生成されてもpHの低下効率が悪く、酪酸発酵が起こりやすくなります。特にアルファルファはイネ科牧草よりも緩衝能が強い傾向にあります。トウモロコシは緩衝能が弱く、pHが低下しやすく、良質なサイレージが調製されやすい傾向にあります。

 

<参考文献>
安宅一夫(2012)最新サイレージバイブル-サイレージとTMRの調製と給与-.酪農学園大学エクステンションセンター.
McDonald.P.ら(1991)The Biochemistry of Silage.Second Edition.Chalcombe Publications.Bucks.England.
菊地政則(高野信雄・安宅一夫監修1986)サイレージバイブル. 酪農学園出版部.
増子孝義(内田仙二編集1999)サイレージ科学の進歩.㈱デーリィ・ジャパン社.
野 英二(2004)サイレージ~より高品質なサイレージ、より乳牛が喰い込むサイレージ~.p53-58. ㈱デーリィ・ジャパン社.
蔡義民(安宅一夫監修 2012)最新サイレージバイブル-サイレージとTMRの調製と給与-.酪農学園大学エクステンションセンター.

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