飼料作物の生産と調製―理論と実際― ≪第4回≫牧草の調製利用~サイレージ調製の基本と実際~
掲載日:2019.10.10
酪農学園大学
副学長 野 英二
1.サイレージ調製の原理と基本
サイレージ調製の基本と技術対応は表1の通りです。飼料作物の代表格は、牧草とトウモロコシです。牧草は、高水分、低糖含量のためサイレージ発酵(乳酸発酵)に適さないものが多く、実際のサイレージ調製ではどのような原理で不良発酵を抑制するのかを明確にすることが肝要です。
サイレージ調製はサイロ内を嫌気的条件にして貯蔵することが大前提です。嫌気的条件下での酪酸発酵の抑制にはpHを低くするか低水分化の方法を取ります。低pH化は、①糖含量の高い原料の利用②糖、乳酸菌、酵素製剤などの添加剤使用による乳酸発酵の促進③酸の添加―などによって達成できます。
低水分化は予乾によって水分調整を行います。予乾の程度は、サイレージの調製法によって異なります。通常、サイロを用いる場合にはその形式にかかわらず、水分含量が60~70%になるよう予乾します。これ以上の水分含量では排汁が生じ、養分のロスが多く、かつ不良発酵に陥りやすくなります。一方、水分が低くなりすぎると、サイロ内の嫌気性の保持が難しくなります。
ここでは、バンカーサイロおよびロールベールによる牧草サイレージ調整方法のポイントを紹介します。
2.バンカーサイロでのサイレージ調製
(1)サイロを完全密封する
好気性の微生物の生育を抑えるにはサイロを密封し、嫌気的状態にする必要があります。このことはサイレージ調製の中で最も重要な基本技術です。サイロ詰め込み中、さらに詰め込み直後のサイロ内は好気的であるため、好気性微生物を抑制するには、サイロへの詰め込みを短時間で行い、詰め込み後は直ちに密封し、できるだけ早く嫌気的にする必要があります。
サイロ壁にビニールシートを設置し、その中に原料草を詰め込みます(写真1)。詰め込み作業中にビニールが破損したら直ちに補修しなければなりません。詰め込み終了後、直ちにシートで覆い空気と遮断しますが、この時、原料草表面とシートの間の空気を極力排除するようにします。また、空気の再侵入や空間をなくするために、古タイヤなどをサイロ表面全体に敷き詰めることが肝要で、タイヤの数が多いほど効果的です。
(2)サイロ内原料を高密度に詰め込む
原料草を高密度に詰め込むことはサイロ内の空気を排除することになるので、サイレージの品質を高めます。また、開封後の好気的変敗の防止策にもなります。サイロ内密度を高めるには、原料草の細切、踏み込み(踏圧、鎮圧)、詰め込み後に加重を行います。
1)原料草の細切
飼料の切断長はサイレージの発酵品質や飼料摂取量、反芻行動に影響します。原料草の微細切は詰め込んだ原料草間の空気を排除し、埋蔵密度を高めます。また、開封後におけるサイレージ内への空気の侵入を難しくし、好気変敗の防止策にもなります。しかし、極端に微細なものはルーメン機能低下の原因となります。
一方、切断長が長い場合は嫌気性の保持が難しく、不良発酵になりやすくなります。また、サイレージの取り出しやTMRの混合が不十分(分離しやすい)になることが懸念されます。このように、サイレージの切断長はサイレージの発酵品質と乳牛への影響との兼ね合いで決定され、ハーベスタの設定切断長は1cm程度に設定します。この場合、実際の切断長は1~3cmになります。また、ハーベスタのナイフは、切り込み時間の経過に伴い切れ味が悪くなり、切断長が安定しなくなります。原料草の切断がシャープになるよう、ハーベスタの研磨に注意を払う必要があります。
2)踏圧
詰め込みは短時間に行う必要がありますが、踏圧を十分に行うことが重要です。特に、バンカーサイロでは面積が広く、また面積に対する高さが低いため、原料草の自重による沈み込みが少ないことから、踏圧をしなければなりません。十分な踏み込みを行うためには、それに合わせて詰み込み速度(サイロへの運搬量)を調整しなければなりません。
原料草の埋蔵密度は、1㎥当たり700kg(乾物で同200kg)以上といわれていますが、人が歩いても足跡が残らない程度まで十分に踏み込む必要があります。また、踏圧程度の指標として数値化した「圧縮(踏圧)係数」があります。圧縮係数は次の式から算出され、踏圧の度合いと詰め込み量が試算できます。
圧縮係数 = 運搬した牧草容積(㎥)÷ 踏圧後の牧草容積(㎥)
(ダンプ容積×台数)÷(サイロ容積)
運搬した牧草容積は運搬車の荷台容積と運搬台数、踏圧後の牧草容積はサイロ容積から求められます。牧草サイレージの踏圧の程度は、1番草で圧縮係数が2.0以上、2番草で2.3以上とされています。つまり、運搬された牧草の容積が半分以下になるように踏圧します。また、運搬車に積載された牧草の乾物重量は、水分含量に関係なくほぼ一定であり、体積計測での乾物重量が推定されるとしています。
踏圧は、キャタピラ式よりも接地圧の高いホイール式(トラクタ)の方が適しています(写真2)。踏圧のポイントは図1のとおりです。
サイロに搬入された牧草は、厚く拡散した状態での踏圧は不十分になります。できるだけ均一に薄く拡げて踏圧することがポイントで、その拡散厚は30cm以下です。
バンカーサイロの側壁は踏圧密度が低くなりやすいため、注意深く入念に踏み込む必要があります。そのためにはサイロ壁側を幾分高めにし、中央部がくぼみになるように詰め込みます。また、サイロの上部は密度が低くなるため、より入念に踏圧します。
3.ロールベールサイレージの調製
牧草の調製利用は、ロールベーラの登場によって、乾草からサイレージ主流へと変化しました。ロールベーラとラッピングマシーンによるロールラップ(ロールベール)サイレージ方式は、牧草刈り取から調製まで機械の一貫体系によるワンマン作業を可能とし、労働の大幅軽減を実現させました(省力化)。また、ロールベールサイレージは天候の変化に即応できる調製法であり、粗飼料におけるサイレージの存在を高めた技術でもあります。
圃場作業での乾物損失やサイレージの発酵ロスが少なく、さらにロールベールサイレージ調製に関する機械や資材の性能向上と多くの研究成果の結果として、サイレージ品質の改善が図られています。ロールベールサイレージ調製の原理は、牧草の水分含量を低水分化して酪酸菌を、またラップフィルムで密封して好気性菌をそれぞれ抑制することです。これは、バンカーサイロでの予乾サイレージ調製と同じ原理です。
ロールベールサイレージの発酵品質は、原料草の水分含量、梱包密度、密封性、貯蔵中の保管状況などに影響されます。良質ロールベールサイレージ調製のポイントを以下に記します。
(1)牧草の刈り取り時期
牧草は、単位面積当たりの栄養収量が高い時期に刈り取ります。刈り遅れは栄養価の低下ばかりでなく、茎が硬化し、ラップフィルムのピンホール(穴)が起こりやすく、発酵品質低下の原因にもなります。
調製作業時間は比較的短時間ですが、降雨などの天候には注意を要します(晴天が2~3日程度続くこと)。また、刈り取り後の降雨は葉部分の低下を引き起こすので、天候の変化に順応できるように作業手順を事前に考えておくことが必要です。
(2)水分調製(予乾)
ロールベールサイレージ調製では、予乾作業が必須です。ラップサイレージの場合は、一般的に水分含量は40~60%といわれています。しかし、筆者の調査では、水分含量60%のサイレージではVBN比(全窒素に対するアンモニア態窒素の割合。粗タンパク質の分解割合を表す)が10%以上の不良発酵を呈するものが認められました。なお、水分含量が50%以下では、ほぼ満足するものでした。従って、ラップサイレージの水分含量は50%程度が望ましいと思われます。
一方、水分含量が40%以下の場合は好気的変敗が懸念されていましたが、ロールベーラやラップフィルムの性能向上などにより、適正に作業を行えばサイレージ品質には問題ないとされています。
(3)梱包作業
予乾後、レーキで集草してロールベーラで梱包します。梱包は、高密度で形の良いロールを形成することが重要です。形の悪いロールでは、ラッピングや運搬作業が円滑に行えません。そのためには、均一なウインドローを形成し、作業精度を低下させないことが重要です。
現在市販されているベーラの多くには、カッティング機能が装備されています。カッティングロールベーラは牧草を切断しながらロールを形成するため、ベールの密度が高まり、発酵品質が向上します。また、牧草が切断されているため、ロールの解体や給餌作業が容易になります。
(4)ラッピング(密封)
サイレージ調製で最も重要なことは密封です。梱包後はできるだけ早くラッピングする必要があります。ラッピングの遅延は、ベール内温度の上昇や発酵品質の低下が懸念されます。梱包からラッピングまでの作業は、その日のうちに処理できるようにしなければなりません(梱包後、半日以内にラッピングすること)。
ラッピングフィルムの巻き数(層数)が少ないと気密性に欠け、ピンホールの原因になるとともにカビが生じます。そのため、巻き層数は4層以上、場合によっては6層以上にする必要があります。長期保存する時は巻き層数を多くすることで品質が保持されます。ピンホールがあった場合は、専用のテープで補修します。
雨中での作業はフィルムの粘着性が低下し、充分な気密性が確保できないため避けなければなりません。
(5)貯蔵法
ロールベールは縦置き2段重ねで貯蔵するとよいでしょう(写真3)。3段重ね以上は、最下段のベールがつぶれてフィルムが剥離し、密封不良になりやすくなります。貯蔵期間が長くなるとフィルムの張りが低下するため、貯蔵中のベールグラブでのベールつかみ動作はフィルムとベール表面に隙間が生じ、カビ発生の原因になります。従って、貯蔵中のベール移動は避けなければなりません。フィルムは紫外線等の影響で劣化するため日陰に貯蔵し、シートなどで覆うことで劣化を軽減させることができます。また、鳥獣によってフィルムが破損することが多いため、日頃から観察するなどその対策も重要です。
ロールベールサイレージは牧草の調製技術として定着しました。近年は細断型ロールベーラの登場で、トウモロコシを原料としたロールベールサイレージ調製も行なわれるなど、ロールベールサイレージ調製利用の範囲は広がりを見せています。
<参考文献>
Keith Bolsen(安宅一夫監修2012)最新サイレージバイブル-サイレージとTMRの調製と給与-,酪農学園大学エクステンションセンター.
名久井 忠(安宅一夫監修2012)最新サイレージバイブル-サイレージとTMRの調製と給与-,酪農学園大学エクステンションセンター.
野 英二(共著)(2004)サイレージ~作り方の基本を外すな~,デーリィ・ジャパン社,p53-58
野 英二(2005)野幌層丘陵地における飼料作物生産量の実測とそれに基づく土地面積当り乳生産に関する研究・酪農学園大学紀要,30(1),27-29.
野中 和久(名久井忠監修2008)自給飼料の収穫・調製技術の最前線,酪農学園大学エクステンションセンター.
大越 安吾(2007)牧草と園芸,55(3),17-22