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衛生

農場のバイオセキュリティを考える ≪第1回≫農場の防疫対策

掲載日:2020.04.08

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 髙橋 俊彦

酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程
 北野 菜奈

1.農場のバイオセキュリティとは

これからの畜産現場で最も重要と思われることは“農場のバイオセキュリティ”です。農場のバイオセキュリティ(防疫対策)とは、家畜における病気の「農場外部からの侵入」「農場内での発生」「農場内での拡散を防止」する対策のことです。農場において、こうした防疫対策を取る際に重要なことは、適正なシステムの作成、マニュアルに基づく正しい運用、さらにそれが日常的作業となるまで生活習慣として浸透させて、農場経営者、農場スタッフの意識を高めていくことです。

しかし、畜産現場における農場内、農場周辺、その区域におけるバイオセキュリティは、それぞれの地域によって大きな差が生じています。そして、各地域においても公共放牧場(写真1)における感染症対策、特に牛白血病や牛ウイルス性下痢(BVD)ウイルスの汚染は、農場から持ち出し、放牧場で感染が拡大していることが知られており、そしてまた農場に持ち込むことが大きな問題になっています。

近年、各地で増加している哺育センター(写真2)内でのBVD感染、クリプトスポリジウム感染、コクシジウム感染、そしてマイコプラズマ感染も大きな問題となっています。そのような見地からも、今こそ農場内や農場間、そして地域のバイオセキュリティの確立が求められています。酪農家や畜産関係者は農場のバイオセキュリティの重要さを十分に認識しているものの、適切な援助や助言を待っています。

筆者(髙橋)は、2010年に発生した宮崎口蹄疫防疫対策に関わりました。また、地域での種々の感染症の撲滅対策にも数多く携わってきました。農場のバイオセキュリティとは病気が発生してからではなく、発生する前にいかに予防するかが最も重要であり、獣医学というよりはむしろ農場全体を包括的に考える畜産学において論じ、教授すべき内容であると考えています。もちろん、獣医学との連携も大変重要で、農学系と獣医学系との連携が必要であり、その一体性を示すことによって社会に大きな影響を与えます。

また、畜産現場に就職を希望する畜産系の学生や、酪農後継者にこのことを教育しなくてはいけないと考えています。今後、これらを希望する学生などに対して農場のバイオセキュリティの基本である「持ち込まない」「増やさない」「持ち出さない」(図)を教育、啓発することが重要です。そのために現在、筆者は学生たちに教育しています。

農場のバイオセキュリティの問題としては上述した家畜の防疫対策のほかにも、畜産農場におけるHACCPの問題も重要です。従って、このバイオセキュリティに関して以下の展開が必要になります。
(1)地域での取り組みの実証
(2)各関係機関の連携システム
(3)効率的で機能的なバイオセキュリティシステム

これから1年間「農場の防疫対策」について連載します。現場で起きている事実に基づき執筆するので、お付き合い願いたいと思います。

2.すべては“消毒”から

畜産現場で何らかの消毒を行っていない所はなく、消毒は普及している農場管理の一つです(写真3、4)。横関(2014)は「(農場の)バイオセキュリティとは、第1段目は病原菌・ウイルスの農場内への侵入防止であり、第2段目は農場内の病原菌・ウイルスの排除である。そのいずれも主役は体外で病原菌・ウイルスを殺滅できる唯一の手段、すなわち“消毒”である」と述べています。
第1段:病原微生物の侵入防止(持ち込みの防止)
1)人による持ち込みの防止(履物・衣服の消毒、手洗い消毒)
2)車両による持ち込みの防止(車両消毒)
3)器材による持ち込みの防止(場内外を往復する器材の受け入れ時の消毒)
4)飼料・水による持ち込みの防止(飼料の検査、水の消毒)
5)虫類・ネズミ・野鳥・小動物による持ち込みの防止(畜鶏舎の閉鎖性改善、監視と駆除)

第2段:病原微生物定着と場内拡散の防止
1)舎内の洗浄消毒(病気発生時、全数出荷または淘汰とうた後、検査)
2)舎内の噴霧・畜体消毒(検査)
3)病畜の淘汰・治療(検査)
4)各畜鶏舎の器具器材の専用化(使用後の消毒、検査)
5)病気発生畜鶏舎作業者の専任化(履物・衣服の消毒、検査)
6)虫類・ネズミなどの駆除(駆除、検査)

これらを総合的に実施し、衛生管理の基本とすることが重要です。

また、酪農現場での消毒の目的は
1)牛の病気の予防(牛病衛生)
2)安全で正常な生乳の生産(食品衛生)
3)周辺環境への汚染伝搬を防ぐ(環境衛生・公害対策)
4)安全で清潔な働く環境の確保(労働衛生)
であり、生産から労働衛生に至るまで多岐にわたります。

 

<参考文献>
1)岩田祐之、押田敏雄、酒井建夫ら(2012)「獣医衛生学」第2版,文英堂出版株式会社.
2)横関正直(2014)「畜産現場の消毒」緑書房.
3)伊藤紘一、呉克昌(2005)「Biosecurity」ウイリアムマイナー農業研究所.

農場のバイオセキュリティを考える ≪第1回≫農場の防疫対策
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