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衛生

農場のバイオセキュリティを考える ≪第2回≫酪農場の消毒

掲載日:2020.05.27

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 髙橋 俊彦

酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程
 北野 菜奈

1.防疫の鍵を握る“消毒”

動物たちは、常に感染症の脅威に直面しています。予防や治療の重要課題は“環境”で、病原体に汚染された環境では感染症のリスクは改善されません。そこで環境から病原体を排除し、家畜を守らなくてはいけません。病原体をコントロールするシステムを作る上で重要なのが“消毒”です。牛舎消毒は、病原体の侵入と農場内での感染防止を目的として行います。

これまで牛舎の消毒は、多くの市町村、農協、NOSAI、自衛防疫組合などを中心に実施されていました。感染症の発生予防はもとより、牛舎の清掃にもなるため、一定の効果を上げていたのは事実です。実際、酪農家が牛舎消毒の日には事前に牛舎を清掃し、敷料を交換している姿を頻繁に見掛けました。消毒の効果を疑問視する声も多くありましたが、清掃する作業だけでも衛生には寄与していたものと思います。まして、酪農家が自ら行動して清掃(衛生管理)している姿は十分に見本になりました。

しかし、消毒の効果判定の難しさや資金面の問題から、そうした酪農家の姿は徐々に減少し、牛舎消毒は現在ではほとんど見られなくなりました。本当になくなってよかったのでしょうか。多くの感染症の被害が出ている農場衛生の現実を考えると疑問が残ります。自分たちの農場は自分たちで守るしかないのが現状ですし、現実的にそうするしかありません。

2.牛舎の消毒

搾乳の消毒は早くから普及していましたが、牛舎消毒の普及はそれほど早くありません。繋留けいりゅう式の牛舎では全頭を舎外に出すことがなかなかできないため、牛舎を消毒する機会がなく、取り組みにくい状況にありました。

乳房炎発生件数と牛舎消毒実施の実態調査から牛舎消毒に対する関心が高まり、市町村、農協やNOSAIで農場巡回式消毒事業を実施する団体が増加しました。しかしながら、その後、消毒の管理は酪農家の自主的管理に任せるようになり、巡回式消毒は廃止され、現在はほとんど存在しません。

3.牛舎消毒の特徴

畜産現場の消毒の中で、牛舎消毒は特殊です。ほかの畜舎消毒は、基本的に“オールアウト”した状態で行われますが、牛舎の場合には前述したようにオールアウトの状況をつくるのがなかなか困難です。しかし、運動場や放牧地を利用して牛舎を空き状態にして、清掃、洗浄、消毒を行うことはできます(写真1、写真2)。

繋留式の牛舎の場合、牛を外に出すことができないときには消毒は困難ですが、牛を移動して行うことも不可能ではありません。また、フリーストール牛舎の場合も、群ごとに移動してその部分だけを消毒し、次の群を移すという方法が取れます。

4.牛舎消毒効果の持続性

乳房炎対策などにおける牛舎消毒の効果は認められますが、決して長期に継続しません。さまざまな飼養環境や乳汁から新たな感染が認められ、消毒の効果は徐々に低下していきます。

牛舎消毒の効果は「おおむね2週間持続する」といわれています。乳房炎対策や感染症対策の牛舎消毒は月2回行うのが理想であり、少なくとも月1回は実施することが望まれます。

5.牛舎消毒の留意点

(1)牛を外に出す
繋留式の牛舎においては、牛を外に出して牛床を清掃、水洗、消毒をするのがよいでしょう。
(2)牛床の構造
清掃、水洗、消毒のしやすい牛床構造の方が消毒の効果は向上します。牛床は排水しやすいような傾斜が必要です。汚水が牛床にとどまる場所がないように仕上げることが重要です。
(3)運動場の乾燥
排水が悪いことにより、運動場や牛舎出入り口が泥濘でいねい化している農場を時々見掛けます。そこを牛が通ることにより消毒した牛舎にふん尿などが入り、牛舎内に持ち込まれて牛床を汚します。運動場は効果的な排水を実施し、乾燥させておくことが重要です。
(4)踏み込み消毒槽
牛が運動場から牛舎に入るとき、“脚浴”するフットバスを設けることが必要で蹄病の防止にもなります。

6.カーフハッチの消毒

カーフハッチは、群飼による感染症などから子牛を防御するための設備です。しかし、カーフハッチ自体を反復利用することにより、感染症が次の子牛に伝染することが多く見られます。そのため、移動した後のカーフハッチを適切に洗浄・消毒することが重要な管理ポイントとなります。
(1)材質
木材のカーフハッチは洗浄しづらいので、最近はプラスチック製が普及しています。効果の面からみてもプラスチック製の方が優れています。
(2)土壌の消毒
カーフハッチを設置した場所は汚染されるので、使用後は別の場所に移動することが望まれます。そのまま使用すると感染症が発生した後、次の子牛に感染するので土壌の洗浄が必要です。
(3)カーフハッチの洗浄・消毒
1)水洗
多量の水で水洗をします。また、洗剤やブラシの利用は効果的です
2)乾燥
基本的に水洗後、丸1日は乾燥させます
3)消毒液散布
石灰乳塗布は非常に効果的です。また、発砲消毒の利用も有効です

 

<参考文献>
1)岩田祐之・押田敏雄・酒井建夫ら(2012)「獣医衛生学」第2版,文英堂出版株式会社.
2)横関正直(2014)「畜産現場の消毒」緑書房.
3)伊藤紘一・呉克昌(2005)「Biosecurity」ウイリアムマイナー農業研究所.
4)バイエルメディカル株式会社動物用薬品事業部「トータルバイオセキュリティプログラム総合編」.

農場のバイオセキュリティを考える ≪第2回≫酪農場の消毒
農場のバイオセキュリティを考える ≪第2回≫酪農場の消毒

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