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衛生

農場のバイオセキュリティを考える ≪第3回≫酪農場で使用する消毒薬

掲載日:2020.06.22

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 髙橋 俊彦

酪農学園大学大学院 酪農学研究科
博士課程
 北野 菜奈

1.消毒の目的と方法

酪農場での消毒の目的には①牛の病気の予防(牛病衛生)②安全な生乳の生産(食品衛生)③環境汚染の防止(環境衛生)④安全で清潔な労働環境(労働衛生)―という四つの大きな柱があります。この一つ一つが重要で、すべてが関連し、連携して消毒も目的が達成します。

一般的に消毒の方法には、「物理学的方法」と「科学的方法」があります。物理学的には①熱として乾熱、湿熱、そのほか②照射として放射線や紫外線③ろ過―などの方法が挙げられます。科学的方法には消毒薬の応用が挙げられます。

今回は現場で多く使用されている消毒薬について紹介します。消毒薬の作用機序は、①菌体壁の破壊②菌体タンパク質の変性③菌体表面を覆い呼吸阻害にする―となっています。消毒薬によって作用はさまざまです(表1)。

また、消毒薬の効果を左右する要因として①濃度②温度③時間④汚れ⑤pH⑥作業の徹底度合―が挙げられます。濃度は、一般的に濃いほど効果が発現します。温度は、40~50度のぬるま湯に薬剤を融解するのがベストです。時間は、基本的に長くかけた方が効果的です。汚れは、有機物が多く存在すると効果は半減します。pHは、次亜塩素酸など濃度によっては影響し、殺菌効果にも関与します。作業の徹底度合は、消毒を行う従事者の作業徹底度によって効果の差が現れます。

2.消毒薬の種類と特性

消毒薬の分類を図に示しました。ここでは、7種類の消毒剤の特性について示します。

(1)逆性石けん
 1)殺菌作用⇒陽電荷を持つ原子団が陰電荷を持つ菌体表面に吸着し、さらに細胞内に侵入して菌体タンパク質に影響を与える。微生物の生理機能に対する作用は、呼吸阻害がもっとも著しく、殺菌作用は主として呼吸系の阻害に基づくものとされている。
 2)特徴⇒皮膚粘膜に対して刺激が少ない。金属、布に対して腐食性がほとんどない。価格が安い。
 3)欠点⇒耐性菌が存在する。陰イオン界面活性剤によって沈殿し、殺菌力が低下する。有機物に吸着されやすい。芽胞菌には効果がない。

(2)両性石けん
 1)殺菌作用⇒陽イオンと陰イオンの両方を荷電する界面活性剤で、陽イオンの殺菌効果と陰イオンの洗浄力を持つ。微生物の細胞表層に作用して殺菌効果を現す。殺菌力はpH8~9付近が最大で、酸性またはアルカリ性が強くなるに従って殺菌力は低下する。
 2)特徴⇒皮膚粘膜に対して刺激が少ない。金属、布に対して腐食性がほとんどない。価格が安い。長時間作用させると結核菌に対して殺菌力を示す。
 3)欠点⇒耐性菌が存在する。有機物に吸着されやすい。石けんまたはタンパクの共存によって殺菌力の低下が起こる。

(3)塩素系
 1)殺菌作用⇒細菌の細胞膜、細胞質中の有機物を酸化分解する。ウイルスの構成タンパクなどを酸化して不活化する。
 2)特徴⇒各種微生物に殺菌効果がある。各種のウイルスを不活化できる。耐性菌ができない。価格が安い。
 3)欠点⇒結核菌に対する殺菌効果は不確実。布製品、金属製品に対して強い腐食性がある。有機物によって分解されやすく、殺菌力が容易に低下する。自然の状態でも分解しやすく、含量の低下が起こる。酸性にすると有毒な塩素ガスが発生する。

(4)ヨウ素系
 1)殺菌作用⇒一般細菌、ウイルス、カビ、結核菌に対して有効。ヨウ素そのものの酸化力による殺菌作用。酸性で殺菌力が強くなり、アルカリ性になるとヨウ素の褐色が消えるとともにほとんど殺菌力がなくなる。
 2)特徴⇒すべてのタイプの細菌に対して同程度の濃度で殺菌できるため、安定した効果が得られる。結核菌に対する殺菌力が強い。
 3)欠点⇒殺菌力が有機物によって容易に減殺される。高温では効力が低下する。皮膚、粘膜、布類を褐色に着色する。ステンレスを除く一般の金属に対して腐食作用がある。

(5)アルデヒド系
 1)殺菌作用⇒強いタンパク凝固を起こすので確実な殺菌・殺ウイルス作用を現す。酸化剤や空気中の酸素によって容易に酸化されてカルボン酸になり、殺菌力をほとんど失う。
 2)特徴⇒芽胞を含むあらゆる微生物に対して殺菌効果がある。各ウイルスに不活化効果がある。耐性菌ができないため、耐性菌対策として他の消毒薬とローテーションで使用される。
 3)欠点⇒皮膚や粘膜に対する刺激が強い。刺激臭が強い。酸性では安定であるがアルカリ性では不安定である。

(6)オルソ剤
 1)殺菌作用⇒タンパク変性と、酵素作用を不活化して死滅させる。
 2)特徴⇒コクシジウムのオーシスト消毒薬として用いられる。特有の色と臭いがある。
 3)欠点⇒酸に弱く、殺菌力が減退する。効力の低下が著しい。紫外線による分解が早い。水の硬度による分離沈殿がある。

(7)消石灰
 1)殺菌作用⇒アルカリによってタンパク質を加水分解し、破壊する。石灰の被膜による封じ込め。ウイルスの場合、アルカリによって立体構造の安定を預かるイオン結合を弱化し、分解させる。
 2)特徴⇒価格が安い。効用範囲が広い。カビが発生しにくい。金属類に塗布してもさびにくい。
 3)欠点⇒アルカリによって皮膚・粘膜を侵す。目に入った場合、失明するおそれがある。吸湿性が高いため、保管の際は防湿および防水に留意する。

表2にそれぞれの消毒薬と効果、商品名を示しているので参考にしてほしいと思います。

 

<参考文献>
1)岩田祐之、押田敏雄、酒井建夫ら(2012)「獣医衛生学」第2版,文英堂出版株式会社.
2)横関正直(2014)「畜産現場の消毒」緑書房.
3)伊藤紘一、呉克昌(2005)「Biosecurity」ウイリアムマイナー農業研究所.

農場のバイオセキュリティを考える ≪第3回≫酪農場で使用する消毒薬
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