特集

特集

Feature
その他

北海道を豊かにするSDGsとGIS ≪第1回≫SDGsの概要

掲載日:2021.09.16

酪農学園大学 農食環境学群 環境共生学類
教授
 金子 正美

はじめに

今回から、「北海道を豊かにするSDGsとGIS」というテーマで連載を開始します。

SDGsとGIS、ご存じでしょうか? どちらの言葉も聞いたことがないという方もいるかもしれません。

SDGsとは、「Sustainable(サスティナブル:持続可能) Development(ディベロップメント:開発) Goals(ゴールズ:目標(複数形))」の頭文字をとったもので、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。

一方、GISとは、「Geographic(ジオグラフィック:地理) Information(インフォメーション:情報) System(システム)」の頭文字で、日本語では「地理情報システム」といいます。さまざまな地理データを、コンピュータを利用して分析、解析、表示し、そのほかの情報とも組み合わせて活用する空間情報システムです。身近なところでは、スマートフォンで見るグーグルマップなどもGISの一つです。

よくGPSと混同されますが、GPSは「Global(グローバル:地球) Positioning(ポジショニング:測位) System(システム)」の略で、日本語では「全地球測位システム」と訳されています。アメリカの人工衛星を活用した車のナビゲーションシステムや測量などに広く利用されていますので、GISより、GPSの方がなじみがあるかもしれません。

SDGs(持続可能な開発目標)とGIS(地理情報システム)にどんな関係があるのか、そしてそれが北海道を豊かにするとはどういうことなのか―これがこの連載のテーマですが、まずSDGsの全体像と環境との関わりについてみていきます。

SDGsとは

SDGsとは、2015年9月の国連総会において全会一致で採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」の中に記載されている世界の国、地方が達成しなければならない17項目の目標(ゴール)です。

期間は、2015年から2030年となっています。この17項目の目標は、貧困問題、食料問題、ジェンダー問題、環境問題など多岐にわたっています(図1)。

この17の目標(ゴール)は、スウェーデンのレジリエンス研究所の所長が考案した“SDGsのウエディングケーキモデル”と呼ばれる三つの階層に分けて考えると理解しやすいと思います(図2)。

それは、「環境(生物圏)」「社会」「経済」の三つの層です。一番下の「環境(生物圏)」の層には、目標6(安全な水とトイレを世界中に)、目標13(気候変動に具体的な対策を)、目標14(海の豊かさを守ろう)、目標15(陸の豊かさも守ろう)の四つの目標が含まれます。

次に「社会」の層には、目標1(貧困をなくそう)、目標2(飢餓をゼロに)、目標3(すべての人に健康と福祉を)、目標4(質の高い教育をみんなに)、目標5(ジェンダー平等を実現しよう)、目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)、目標11(住み続けられるまちづくりを)、目標16(平和と公正をすべての人に)の八つの目標が含まれます。ここでは、健全な社会を形成するために、食料、健康、福祉、教育、差別、人権、地域づくりといった目標が関係します。

一番上の層「経済」には、目標8(働きがいも経済成長も)、目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、目標10(人や国の不平等をなくそう)、目標12(つくる責任 つかう責任)が含まれ、持続的な経済発展は、健全な環境と社会に支えられて実現することを示しています。 

最後にこの三つの層の頂点にあるのが、目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)で、SDGsを達成するためには、世界中の政府、自治体、企業、NGOなどがパートナーシップを組み、包括的に進めていく必要があることを示しています。

では、持続的な経済発展、健全な社会づくりの基礎となる環境は、現在どのような状況なのでしょうか?

図3は、人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つである“地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)”という考え方で表現された現在の地球の状況です。

赤色で示された項目が、不安定な領域を超えてしまっている(高リスク)とされている項目で、不可逆的で壊滅的な変化を起こすとされています。この項目に、「窒素」「リン」「絶滅の速度」が該当します。

絶滅の速度の問題は、別の機会に説明したいと思いますが、窒素、リンが最も高リスクとなっている原因は、化学肥料(主成分は窒素・リン・カリウム)といわれています。世界で使われる化学肥料は年間1億4,500万トンで、それが川や海に流出し、汚染物質となっています(谷崎、2020)。プラネタリーバウンダリーの8~9割は農業が関連し、窒素やリンの循環を持続可能な範囲に収めるには、肥料投入量の最適化、耕起や潅漑かんがいといった管理方法の改善など、農業分野での対策が必要と言われています(伊藤、2020)。

窒素とリンの問題は、SDGsに直接記載されていませんが、窒素とリンを大量に使用している北海道の農業にとって、SDGsを推進する上で、最も重要な問題の一つであると考えられます。
(第2回に続く)

※2018年:1億8,800万トン(総務省統計局、2021)

 

≪引用・参考文献≫
谷崎テトラ(2020)地球環境研究センターニュース
https://cger.nies.go.jp/cgernews/202012/360002.html(2021年9月6日参照)
伊藤昭彦(2020)地球環境研究センターニュース
https://cger.nies.go.jp/cgernews/202012/360002.html(2021年9月6日参照)
総務省統計局(2021)世界の統計2021,第4章農林水産業,4-6肥料消費量
https://www.stat.go.jp/data/sekai/0116.html#c04(2021年9月6日参照)

北海道を豊かにするSDGsとGIS ≪第1回≫SDGsの概要
北海道を豊かにするSDGsとGIS ≪第1回≫SDGsの概要
北海道を豊かにするSDGsとGIS ≪第1回≫SDGsの概要

※ ダウンロードにはアンケートへのご回答が必要です。