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哺育・育成

乳用子牛の哺育管理の基本とこれからの展望について

掲載日:2022.05.09

酪農学園大学 獣医学群 獣医学類
准教授
 福森 理加

はじめに

前回の酪農PLUSの記事においては、子牛の消化器官・機能の発達、栄養生理機能の特徴、一般的な哺育期栄養管理の方法について解説しました。これに続いて本稿では、哺育期の栄養管理において、一番大きなキーワードである「離乳」を成功させるポイントや今後の展望について私見を交えながら解説していきたいと思います。
※「離乳前後の子牛の管理について」https://rp.rakuno.ac.jp/archives/researchlist/1024.html

1.哺育期の三つのステージ

栄養学的な視点で見ると、哺育期は三つのステージに分けられます。一つ目は「哺乳期」で、ほとんどの栄養源を液状飼料(生乳や代用乳)に依存しています。二つ目は「(離乳)移行期」で、液状飼料による栄養摂取から、人工乳(カーフスターター)などの固形飼料による栄養摂取にシフトする期間を指します。そして三つ目は「離乳後」であり、固形飼料のみで必要な栄養素を賄えるようになったときを指します。図1は乳用子牛に粉体で最大1.0 kgの代用乳を給与し、漸減していく哺乳のプログラムで、カーフスターターや乾草を自由に採食させた場合の採食量の推移を示しています。哺乳期の子牛はルーメンの容量・機能も未発達で、主に第四胃以降で消化・吸収を行っています。しかしながら、管理的には5日齢くらいからカーフスターターや乾草の給与を開始することが勧められています。実際には、子牛の飼育ペンに少量のカーフスターターや乾草を入れたバケツを設置しておき、子牛が自発的に食べられるようにしておきます。この狙いは“固形飼料から栄養を摂取させよう”という意味合いよりも、“ルーメンを作るための準備”であると言えます。すなわち、早いうちからルーメンの中に固形飼料を入れておくことで、ルーメン微生物の増殖、微生物の発酵産物(揮発性脂肪酸:VFAなど)によるルーメン上皮の発達を徐々に開始させます。固形飼料を口にしていくことで、生後10~14日ほどで反芻行動が見られるようになります。移行期は、カーフスターターの摂取量が急激に増加する時期です。この時期の子牛に固形飼料を自由摂取させると、粗飼料である乾草よりも濃厚飼料であるカーフスターターを多く摂取していることが分かります。哺乳量を制限または休止すると、子牛は空腹感から固形飼料を積極的に食べるようになります。しかしながら、固形飼料を消化する機能が十分でない場合、下痢や食欲不振に陥り、発育遅延が生じます。子牛の消化管の発達具合を無視して離乳を行ってしまうと哺育の失敗につながります。

2.離乳を上手く乗り切るには

乳用子牛の哺育はほぼ100%人工哺乳で行われます。哺乳は、固形飼料の給飼に比べて作業量や注意点が多くなります。例えば、粉ミルクの計量、お湯の温度の調整、哺乳器具の洗浄・消毒、飲まない子牛へのフォローなど、たくさんの時間や労力を使います。できれば、早く離乳できた方が労働的にも経済的にも楽になります。そのような観点から開発されたのが、従来の早期離乳法であり、出生後から一律4L程度の哺乳量に制限することで、哺乳期の早くから固形飼料の摂取量を高めて6週齢程度で離乳させることが可能になっていました。しかしながら、この飼育方法では、子牛の時期に可能な発育のチャンスを逃してしまいます。子牛の本来の仕事は、将来の活躍のために大きく発育することですので、最近では高栄養哺乳を行う管理も普及してきました(高栄養哺乳のメリットについては以前の記事でもご紹介しました)。しかしながら、哺乳期間にしっかりと哺乳を行うと、満腹感から固形飼料の摂取量が制限されやすく、離乳後のストレスが増大してしまうことが問題となっています(図2)。発育のための哺乳をしっかり行いながら、離乳を早くする技術開発が課題となっています。これが実現できれば、子牛の大切な使命である「体の成長とルーメンの成長」を両立させることにつながります。

哺育期間を通じて発育が良い子牛は、カーフスターターの摂取状況が良好です。図3には、子牛の発育成績と哺育期間における固形飼料の摂取状況の関係を示しました。子牛は同じ哺育条件(最大代用乳を粉体で1.0 kg/日、5週齢から徐々に哺乳量を減らして7週齢で離乳、カーフスターターと乾草は試験期間中2.5 kg/日を上限として自由摂取)で飼育し、91日齢の体重別にHigh群(≧120 kg)、Medium群(<120 kg、≧100 kg)、Low群(<100 kg)に分けると、Low群は離乳時のスターター摂取量が0.46 kg/日しかなく、離乳移行期に発育停滞が生じているのがわかります。また、離乳移行期にスターターよりも乾草を好んで摂取していました。Medium群およびHigh群は、いずれも離乳時のスターター摂取量は1.55 kg/日、1.60 kg/日に達していましたが、High群の方が離乳後の摂取量の伸びが良好であり、スターター摂取上限の2.5 kg/日にMedium群よりも2週間程度早く到達していました。このように、同じ飼育条件でも固形飼料への適応能力は個体によって異なり、それが発育に反映されることが分かりました。

哺育を成功させるためには、多くの栄養をより安全な形で与えるための管理や技術について考えていく必要があります。“安全な形”というのは“お腹に優しい≒下痢をしにくい”というイメージです。人間も、こってりとした食品を摂取するとお腹を壊すことがありますが、これは消化管で栄養素を分解する能力が追い付かず、消化不良を起こしている状態といえます。基本的に、摂取した栄養素の大部分は小腸までのところで消化・吸収されるようになっていますが、消化能力を超えた易発酵性の栄養素が大腸に大量に流れた場合には、大腸アシドーシスの状態になり下痢が生じることが懸念されています。例えば、カーフスターターは主に穀類が原料となっているため、でんぷんが多く含まれます。でんぷんはルーメン内では、微生物発酵によってVFA(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)に分解され、吸収されますが、ルーメンで消化しきれなかったでんぷんは小腸に流れ、アミラーゼやマルトースによる消化を受け、グルコースの形で吸収されます。しかしながら、ルーメンが未発達の子牛はルーメン微生物による発酵量が少なく、小腸でのでんぷん消化能力も低いとされています。でんぷんをルーメンや小腸で分解して吸収する能力は、牛が生来的に持っているものではなく、でんぷん質飼料を少量ずつ口にすることで時間をかけて獲得するものです。そのため、離乳をして急激にスターターを摂取してしまうと、ルーメンや小腸で消化しきれなかった未消化でんぷんが大腸に流れ、大腸で過剰な発酵が生じる原因になってしまいます(図4)。離乳後の大腸アシドーシスを防ぐには、哺乳期から積極的にスターターを食べさせるように意識することが大切だと考えます。できれば、哺乳直後の食欲が高まったときに新鮮なスターターを飼槽やバケツで給与する、または、人の手から子牛の口に少量のスターターを含ませるなどして、早期からスターターに関心を持たせることが有効です。また、離乳移行期は空腹感から急激にスターターの摂取量が増加しますが、かため食いをしないよう、いつでも飼槽にスターターや乾草が摂取できるような状況を作ることが重要だと考えます。

哺育期の下痢を防ぐ方法としては、栄養管理だけでなく、飼育環境への配慮も必要です。哺乳量が増えることで排泄物量(特に尿)が増加します(1.2 kgの代用乳を6Lのお湯で溶かして給与した場合、1日に約5Lほどの尿が排泄されます)。その分、敷料などが湿りやすく、湿った床で横臥おうがすることで腹部が冷えて下痢が生じるリスクも高まります。こまめな敷料の交換や水はけのよい牛床環境づくりも栄養管理とセットで考えていく必要があります。

3.哺育管理に関する今後の展望

“固形飼料への適応能力の差がどのようにして生まれるのか”について(初乳や胎生期の影響、消化管の微生物そう・腸管粘膜の違い、採食行動の違いなど)明らかになれば、哺育期の栄養管理技術の向上につながると考えられます。例えば、ルーメン上皮や腸管粘膜の発達を促す酪酸は、飼料に添加することで摂取量が増加し、発育が向上することが報告されています。また、最適なカーフスターターのでんぷん濃度や粗飼料との比率などについても、データの更なる蓄積が望まれます。子牛の消化管の生理的、機能的発な発達度合は日齢と摂取した飼料との相互作用によって決まるため、哺乳量の見直しによって哺育プログラムもアップデートされることが期待されます。

乳用子牛の哺育管理の基本とこれからの展望について
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