質問コーナー

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Q&A

ヨーグルトメーカーでヨーグルトを作るときに、高温殺菌牛乳と低温殺菌牛乳で栄養素や風味に違いはありますか?

掲載日:2019.12.19

Q

牛乳の殺菌方法について「今さら聞けない基礎知識」にて勉強させていただきました。そこで疑問に思ったのですが、高温殺菌牛乳と低温殺菌牛乳とではヨーグルトメーカーにかけてヨーグルトにした際に栄養素や風味に変化はあるのでしょうか。教えてください。

A

ご質問の内容は「高温殺菌牛乳と低温殺菌牛乳とではヨーグルトメーカーでヨーグルトを作ったときに、栄養素や風味に違いがあるのか」という問いであると理解しました。

結論から言いますと、「栄養素の量的な違いは無いが、消化吸収という観点では高温殺菌牛乳のほうがより良い」、また風味の観点からは、「食べたときの食感が、低温殺菌牛乳のほうが固まり方が弱いので、その点で高温殺菌牛乳のほうが優れる」と考えられます。

牛乳の殺菌方法は「今さら聞けない基礎知識」のコラム(参考リンク)でお示ししました。
再度確認すると、高温殺菌牛乳は、生乳を72~75℃で15秒間加熱することで殺菌し、直接安全に飲めるようにしたものです。
また、スーパーなどで見かける多くの牛乳は120~150℃で数秒間加熱した超高温瞬間殺菌の牛乳です。
さらに、低温殺菌牛乳は、同じく生乳を63℃で30分加熱することで殺菌したものです。

まず、「異なる殺菌条件の牛乳で作ったヨーグルトで栄養素に違いがあるか」にお答えします。
様々な殺菌をしても、同じ原料の生乳を用いているのであれば、栄養素の量的な変化はないと思われます。
牛乳の殺菌は閉鎖系で行われるので、殺菌する乳と外部とに物質の交換が発生しないからです。
そのため、これらの乳を用いてヨーグルトを作っても、乳と同様、栄養素の量的な変化はないと考えられます。
なお、生乳のタンパク質は、殺菌時の加熱によって、その中に含まれるもののうち一部が変性します。
殺菌の前後で栄養価の変化はないのですが、殺菌時の高熱によって変性したタンパク質は、体の中にある栄養成分を消化する酵素が接触しやすくなります。
したがって、消化性は高まると考えられ、相対的な栄養価は上昇します。

風味についてですが、風味は「味」「におい」「食感・見ため」によって左右されます。
「味」は殺菌条件による原料の牛乳に差がないと考えられます。
したがって、ヨーグルトにしてもその差を明確にはできないと考えます。
また、「におい」については、高温での殺菌によっていわゆる「加熱臭」の生成が強くなるようです。
日本ではこれが牛乳の「コク」としてとらえられているようです。
殺菌方法によってヨーグルトにした時のにおいの明確な違いは、敏感な人は違いを感じられるかもしれませんが、あまり明確な違いは無いのではないかと思います。

「食感・見ため」については、使用した原料乳の殺菌条件による違いが、ヨーグルトにすると出てきます。
ヨーグルトは、乳酸菌が牛乳のなかで増殖し、その乳酸菌が乳酸を放出することで乳が酸性化して凝固したものです。
すなわち、ヨーグルトの中の乳酸菌は、活発に増殖しないと固まり方が弱くなるということです。
低温殺菌牛乳の加熱条件では、一部の成分がもつ抗菌作用が完全に無くならないとされています。
そのことで乳酸菌の生育が遅くなる場合があります。
したがって、低温殺菌牛乳の加熱条件ではしっかりとした発酵が若干起きにくいことが考えられます。
また、ヨーグルトの上面に出てくる水(ホエイ)を出にくくさせるには、タンパク質の一部(ホエイタンパク質)を変性させることが必要となります。

ちなみに、ヨーグルトの製造における殺菌条件として広く用いられているのは、85℃で30分間保持する条件や、90~95℃で5分保持する条件のようです【1】。
これらの殺菌条件はいずれも高温殺菌です。

【1】斎藤忠夫ほか編、ヨーグルトの事典(2016)、p99-107、朝倉書店


【回答者】
酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類
講師 栃原 孝志