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土壌・草地

草地の土づくり ≪第6回≫土壌診断に基づく施肥対応2:カリウムの施肥対応

掲載日:2020.11.13

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 三枝 俊哉

はじめに

今回からカリウム、リン、窒素の順で、草地における土壌診断に基づく施肥対応についてご紹介していきます。肥料の3要素というと窒素、リン、カリウムの順で言われますが、今回反対の順番にしたのは、カリウムの説明が最も単純で分かりやすく、リン、窒素の順で複雑になっていくからです。これは、各養分が土壌中で形態変化する際の多様性に対応しています。土壌中ではカリウムの挙動が最も単純で、養分吸収のほとんどが交換性カリウムで説明できます。もちろん、粘土鉱物の種類によっては、土壌に強く固定されるカリウムもありますが、その存在形態は、吸着形態の多様なリンや有機化無機化の変遷著しい窒素と比較するとずっと単純です。

まずは、採草地について①火山性土②低地土・台地土と泥炭土、その後③放牧草地のカリウム施肥対応についてご説明します。

1.採草地のカリウム施肥対応

(1)火山性土
前回「土壌分析値の見方と使い方」でご説明したように、土壌由来の養分も施肥由来の養分も、牧草にとっては同じ養分なので、「土壌養分が豊富にあれば施肥は少量でよく、土壌養分が少なければ多くの施肥量を要する」というように、両者の関係は連続的に変化します。その最も典型的なものが、チモシーとオーチャードグラスにおける火山性土のカリウムです。良好な収量水準や安定したマメ科牧草混生割合を得るには、10a当たり表層0~5cm土壌中に存在する交換性カリウム量と年間のカリウム施肥量の合計値が22kg/10aあればよいことが、多くの圃場ほじょう試験から明らかになりました(根釧農試 1998;図1)。
この図を見るかぎり、土壌に22kg/10aの交換性カリウムを保持させておけば、カリウムを施肥する必要はなくなるように見えます。しかし、実際には土壌にそんなに多くのカリウムを保持させておくことはできません。特に、北海道のような雪国は、春先の融雪水で多くの養分が流出しやすい環境にあります。カリウム施肥量の異なる圃場の2番草収穫後における交換性カリウム含量を3年間観察すると、火山性土に立地した草地では0~5cmの土壌が安定して保持できる交換性カリウム含量は3~4kg/10aでした(図2;三枝・能代 1996)。つまり、土壌に3~4kg/10aの交換性カリウムを保持させ、残りを毎年の施肥でまかなうことが、最も系外への流出量が少ないカリウムの施肥管理であるといえます。流出量が少ないということは、カリウム資源の節減と低コストにつながります。
全部で22kg/10a必要なカリウムのうち、3~4kg/10aを土壌に保持させるとすると、年間に必要な施肥量は18~19kg/10aですね?つまり、この3~4kg/10aがカリウムの土壌診断基準値で、残りの18~19kg/10aが火山性土における採草地の施肥標準18kg/10aの根拠です。カリウムに関しては、未熟火山性土、黒色火山性土、厚層黒色火山性土の種類によらず、共通に3~4kg/10aが土壌診断基準値であるということになります。しかし、土壌分析値の単位はkg/10aではなくmg/100gです。そこで、3~4kg/10aをmg/100gに換算すると、未風化で仮比重の重い未熟火山性土は7~9mg/100g、仮比重の軽い厚層黒色火山性土は10~13mg/100gと、見かけ上、火山性土の種類によって表示値に違いが生じることになります(表1)。図1の数式で年間カリウム施肥量を算出できる対象は、道東、道央・道南のチモシーまたはオーチャードグラスを基幹とする採草地です。より深い土層からの養分吸収が期待されるアルファルファや、作土に下記の低地土・台地土が混ざりやすい道北地方の火山性土は、安全を見て対象から除外されています。

(2)低地土・台地土と泥炭土
低地土・台地土の母材は、前述の火山性土の母材である火山灰よりも、多くの場合、重鉱物が豊富で養分含量の高い肥沃な土壌です。このうち、粘土含量が多く排水性や砕土性に劣る物理性を有する土壌を重粘土と呼ぶことがあります。低地土・台地土には、母材を構成する粘土鉱物の種類によっては、粘土の結晶格子の隙間にカリウムを取り込んで動きにくくするようなものが含まれます。このため火山性土のような単純な足し算引き算で必要な施肥量を算出することができません。多くの圃場試験をおこなって、どのくらいの交換性カリウム含量だったら施肥標準量を何%増やしたらよいか?何%減らしたらよいか?を整理した結果が表1です。低地土や台地土の仮比重は火山性土の未熟火山性土並みです。したがって、低地土・台地土の土壌診断基準値を10a当たりの交換性カリウム量に換算すると、未熟火山性土よりもずっと多くの量を保持している計算になります。粘土鉱物に由来するカリウムの形態変化や透排水性の違いによる流れやすさの違いなど、火山性土では考えなくてよかったことをたくさん考慮しなければならないので、このように大きく異なる土壌診断基準値とそれに基づく施肥対応が設定されているのです。しかし、これらの低地土・台地土で起こるカリウムの溶出や移動も、必ず自然の法則に従っているはずです。今はこのように対症療法的な決め方をしていても、いつの日か、火山性土よりはいくらか複雑な計算式で必要施肥量を説明できる日がくると期待しています。
一方、泥炭土は母材が植物遺体なので、重鉱物を有する粘土含量は火山性土よりもさらに少ない上、地下水の影響も受けやすい土壌です。泥炭土の土壌診断基準値30~50mg/100g(表1)は、仮比重0.2g/cm3のときに火山性土と同程度の3~5kg/10aになります。泥炭土の仮比重は、客土の有無や泥炭層の間に挟まる火山灰や砂や粘土などの量によって大きく変動します。仮比重0.2g/cm3は低い方だと思いますので、泥炭土におけるカリウム土壌診断基準値は、10a当たりの存在量に換算すると火山性土よりも多めの設定になっているといえます。また、施肥対応に関する泥炭土の特徴としては、客土の有無で対応を変えているという点です。客土された泥炭草地では、客土材の性質が考慮され、低地土・台地土に類似した対応が設定されています。

2.放牧草地のカリウム施肥対応

放牧草地の土壌診断基準値は、カリウムのみ採草地とは別の基準値が設けられています(表2)。これは放牧草地におけるふん尿還元のあり様に基づいています(図3)。採草地の場合、施肥で土壌中の交換性カリウム含量が増え、牧草が成長してカリウムを吸収すると、土壌の交換性カリウム含量は減少します。この変化が番草ごとに繰り返されます。そして最終番草収穫日から翌年のための有機物施用開始日までの期間が、当年分の養分の施用と利用が完了し、翌年の養分管理を待つ土壌養分状態になる時期です。この時期に土壌を採取し、分析することが正確な施肥設計を得るために適切です。ところが、放牧草地にはこのような時期がそもそも存在しません。放牧草地では家畜が放牧草を採食するその日のうちに、ふん尿の排泄によって養分が還元されます。放牧が終了し、当年の施肥も採食も完了した日には、すでに養分の還元まで完了しています。このため、秋の終牧時に採取した土壌には、必然的にふん尿排泄を通して還元された養分が含まれてしまっています。もちろん、カリウム以外の養分もふん尿排泄の影響を受けているのですが、土壌診断基準値の設定を変えなければならないほど影響を受けていた養分は、放牧草地の養分循環で最大の循環量を示すカリウムであったということです。

火山性土における多くの放牧試験の結果から、標準施肥量で安定的に維持される0~5cm土壌中の交換性カリウム含量は10kg/10a程度で、これを上回った牧区では減肥することにより、下回った牧区では増肥することにより、採食量を確保しつつミネラルバランスを適切に調節できることが確認されました(三枝 2013)。このこのことから、火山性土の土壌診断基準値を10kg/10aとすると、採草地の土壌診断基準値3~4kg/10aとの差し引き6~7kg/10aがふん尿を通して還元されたカリウム量と推定できます。適切な施肥管理と放牧管理によって生じるこのようなふん尿排泄に伴うカリウム還元量には、地域間差や土壌間差はないはずです。そこで、表2の土壌診断基準値には、採草地におけるカリウムの土壌診断基準値に、上記のふん尿還元分6~7kg/10aを上乗せした値が設定されました。

おわりに

カリウムは水系などの環境に流出しても、窒素やリンのように環境に強い負荷をかける物質としては認識されていません。しかし、カリウム肥料の原料はカリウム鉱石で、資源量は当然有限です。また、過剰なカリウム施肥は粗飼料のミネラルバランスを悪化させることはご存知の通りです。定期的な土壌診断によって必要最小限の施肥量で健全な牧草を生産し、その結果高い家畜生産性を維持できれば、それは持続的な土地利用につながります。ぜひ一度、草地の土壌診断をやってみてはいかがでしょうか?

 

<引用文献>
北海道農政部(2015)北海道施肥ガイド2015,197-229,北海道農政部,札幌.http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/10/clean/sehiguide2015_05.pdf(2020年11月03日参照)
根釧農業試験場(1998)牧草ミネラル組成改善のためのカリ低減型施肥法,平成10年普及奨励ならびに指導参考事項,152-153,北海道農政部,札幌.
松中照夫・三枝俊哉(2016)草地学の基礎-維持管理の理論と実際-,p129-132,農山漁村文化協会,東京.
三枝俊哉・能代昌雄(1996)北海道の火山性土に立地した草地に対する低投入持続型カリウム施肥の可能性,日本土壌肥料学雑誌67:265-272
三枝俊哉(2013)北海道東部の乳牛集約放牧草地における土壌診断に基づく施肥対応の検証事例,日本草地学会誌59:105-113

草地の土づくり ≪第6回≫土壌診断に基づく施肥対応2:カリウムの施肥対応
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