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土壌・草地

草地の土づくり ≪第9回≫自給肥料をどう使うか?

掲載日:2022.04.07

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類
教授
 三枝 俊哉

はじめに

これまで草地の施肥管理について、北海道施肥標準と土壌診断に基づく施肥対応の解説を5回にわたって続けてまいりました。これで各圃場に必要な肥料養分量の算定法に関する説明は完了です。続いて本稿では、その必要な養分量のどれだけを堆肥やスラリーなどの「自給肥料」で賄うか、どんな銘柄の化学肥料を購入して散布するか、その計画法についてお話しします。

1.自給肥料活用の意義

ここでいう自給肥料とは、牛舎(畜舎)に排泄された家畜ふん尿を主原料とする堆肥、尿液肥、スラリーなどの有機物資材を指します(松中・三枝2016)。堆肥やスラリーなど有機物資材の肥料効果(以下、肥効)は、酪農場が使用する飼料、敷料などの成分、家畜ふん尿の貯留と調製に係る施設の構造・管理体系などの条件によって大きく変動します。化学肥料はその袋に保証成分が記載され、資材1tに何kgの肥料養分が含まれるかが、すぐにわかります。しかし、牛舎で産出される家畜ふん尿から調製される堆肥やスラリーは、前述のように肥料養分含量が大きく変動するので、これを肥料資材として有効利用するためには、各酪農場の有機物資材の肥効を個々に把握するところから取り組む必要があります。それには、家畜ふん尿を産業廃棄物ではなく、農地に還元して“土-草-牛”を巡る養分循環に組み込む資材と強く認識したいので、本稿では「自給肥料」の用語を用います。

昔から、堆肥やスラリーを施用する際の減肥可能量として、表1のように減肥の目安が設定されていました。しかし、近年は1戸当たりの飼養頭数が増え、草地に施用する養分に占める家畜ふん尿由来の養分割合が多くなり、表1のような大まかな指標では正確な施肥設計が難しくなってしまいました。そのため、個々の酪農場が自給肥料の養分含量を事前に把握し、以下に述べる方法によって化学肥料に換算して、必要最小限の養分管理で良質粗飼料を確保することが、環境負荷の少ない持続的な土地利用に必要な対策となっています。

2.自給肥料利用計画の流れ

自給肥料の利用計画は図1の流れに沿って行います。第1段階では連載第4~8回でご紹介した方法に基づき、草地の草種構成を把握して施肥標準量を求めます。さらに土壌診断に基づく施肥対応によって各圃場の肥沃度に応じた補正を行い、圃場ごとに必要な養分量を算出します。各圃場に必要な養分量に過不足が生じないように配慮しつつ、毎年牛舎で産出された家畜ふん尿を自給肥料として粗飼料生産圃場に還元しきるためには、第2段階において、自給肥料の肥効を正確に評価して化学肥料に換算します。そして、第3段階で自給肥料の散布計画と化学肥料の購入計画を立案します。このとき、後述するように自給肥料の施用時期によって窒素の肥効が変化するので、自給肥料の種類や施用時期に変更が生じた場合には肥料換算をやり直すという試行錯誤が発生します。

前述のように第1段階の詳細はすでに連載第4~8回でご紹介済みですので、第2段階の自給肥料の肥効評価から、具体的な方法について解説します。

3.自給肥料の肥効評価 ―肥料換算係数と補正係数―

先に述べたように、牛舎から産出される自給肥料の養分含量は、飼養形態、ふん尿の管理方法などによって大きく変動します。そこで現在は、事前に自給肥料の養分含量を分析・定量することが推奨されています。分析作業は会社に外注するのが正確ですが、それには時間と費用を要します。北海道では、一般的な堆肥、スラリー、消化液、尿液肥などを対象として、電気伝導度(EC)と乾物率(DM)による簡易推定式が提示されています(表2)。

分析または簡易推定された養分含量は、そのままでは自給肥料の保証成分にはなりません。それらの養分は、圃場に施用された後、全部が作物に吸収利用されるわけではないからです。利用されない養分とは、雨水と一緒に地面にしみ込み、ガスとして揮散し、土壌に蓄積して、すぐには作物に移行しないものを指します。そこで、分析・定量された養分含量を化学肥料に換算するための係数が、肥料換算係数と呼ばれて表3のように設定されています。定量された養分含量にこの肥料換算係数を掛け算することによって、自給肥料を化学肥料に換算できます。たとえば、現物1tにカリウム5kgを含むスラリーの場合、このスラリー1tを化学肥料のカリウムに換算すると、5kg×0.8(表3のスラリーにおけるカリウムの肥料換算係数)=4kg分となります。

このとき、窒素だけは、施用する堆肥またはスラリーの品質と施用時期によって、肥効が大きく変化します。そこで、品質と施用時期に係る補正係数が、表4と表5のように設定されています。窒素の肥料換算の際には、表4と表5の係数も掛け算します。

このような肥料換算係数や減肥可能量はここで述べてきた維持管理草地だけでなく、草地更新時や飼料用トウモロコシ畑に対しても設定されています。詳細は北海道施肥ガイド2020(北海道農政部2020)を参照して下さい。

4.自給肥料の利用計画 -施用限界量の考え方-

自給肥料の肥料換算ができたら、前回までにご説明した草地の診断技術で求めた各圃場に対する必要施肥量の内、どれくらいを自給肥料で賄うかを決めます。その際、最も重視することは、窒素、リン、カリウムのいずれの養分も、各圃場に必要な養分量を越えないようにすることです。図2の例では、窒素、リン、カリウムの必要量を自給肥料だけで賄おうとすると、それぞれ3t/10a、8t/10a、5t/10aの施用量が算出されます。ここで、3t/10a以上の自給肥料を施用すると、窒素が必要以上に施用され、飼料品質の悪化や環境汚染の原因になります。そこで、この草地に対する自給肥料施用量の上限を3t/10aとします。すると、リンとカリウムが不足するので、その分だけ化学肥料を購入して併用します。

5.パソコンの利用 -AMAFEのすすめ-

ここまでご紹介した方法は、酪農場が利用する1筆の圃場に対して行う施肥計画の手順です。実際の酪農場ではたくさんの圃場を管理しているので、それぞれの圃場に対して前述の調査、分析、集計、計画を行う作業は大変煩雑です。しかも、全圃場の施肥計画を立案した時点で、自給肥料の年間使用量と牛舎からの1年分の家畜ふん尿産出量を対比し、過不足が生じた場合には再計画を含む対策を講じなければなりません。

この作業を電卓で行うことはとても大変なので、パソコン用のソフトウェアが開発されています。AMAFE(アマフェ;Decision Support System for Application of Manure and Fertilizer to Grassland and Forage Corn Field based on Nutrient Recycling)と称すこのソフトウェアは、酪農学園大学、道総研、農研機構が2006年に共同開発し、2017年からクラウドに移行して利用しやすくなりました。

このソフトウェアは北海道の酪農家1戸を対象とした家畜ふん尿利用計画支援ソフトウェアで、圃場の作付け計画、草地区分、土壌・自給肥料の分析値などを入力すると、圃場ごとの必要施肥量や自給肥料の施用上限量を自動計算します。利用者は、いつどこの圃場に何を施用するかという自給肥料利用計画に集中できるように設計されています。GISの位置情報システムにも対応し、マップ表示できるようになっています(図3)。利用料は10,000円/1ユーザー(30圃場まで)です。興味のある方は以下のURLをのぞいてみて下さい。
https://amafe.farm/home/index.html

おわりに

自給肥料の有効利用は昔から肥料費の節減を目的として推奨されてきましたが、近年では環境負荷の抑制目的としても注目され、国の補助事業の要件にも取り上げられるようになりました。SDGsの趣旨にも対応します。ふん尿を肥料として利用するには養分含量を測定し、施用台数を数え、記録するという「作業内容を数字で残す」ことが基本となります。これらは面倒なことなので、目的がはっきりしないと取り組みにくいことでしょう。次回は、これらの施肥改善を行ったときの効果や取り組みやすくするための工夫についてお話ししたいと思います。

 

<参考文献>
北海道農政部(2020)北海道施肥ガイド2020,195-208,北海道農政部,札幌
 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/clean/index.html (2022年3月参照)
松中照夫・三枝俊哉(2016)草地学の基礎-維持管理の理論と実際-,p154-159,農山漁村文化協会,東京.

<参考リンク>
連載『草地の土づくり』
≪第4回≫施肥基準とは何か?
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/2372.html

≪第5回≫土壌診断に基づく施肥対応1:土壌採取時の注意と施肥対応の考え方
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/2982.html

≪第6回≫土壌診断に基づく施肥対応2:カリウムの施肥対応
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/3414.html

≪第7回≫土壌診断に基づく施肥対応3:リンの施肥対応
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/3643.html

≪第8回≫土壌診断に基づく施肥対応4:窒素の施肥対応
https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/4047.html

 

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